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シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
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人食いトロルと七色のバナナ

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  人食いトロルと七色のバナナ

  1、始まり
 
 ここは、いろいろな生き物が住む広大な森、ジバヤーゴ。
森にはさまざまな動植物のほかに、人間たちが恐れる人食いトロルたちが暮らしていた。
これはその中の一人、人食いトロルのジヴが主人公の物語。
 
  2、大げんか
 
 その日、ジヴの家は朝から大変な騒ぎだった。
「もう、あかん。あんたの面倒なんか誰が見るか!どこへなりとも行ってまえ!」
 ジヴの母親は、カンカンになって怒鳴った。
「あー、そうするわ!こんなとこ、誰がいるか!頼まれたってもう戻らへんからな!」
 ジヴも売り言葉に買い言葉、引っ込みがつかなくなって家の重い木の扉を勢いよくバタンと閉め、外へと飛び出した。腹の虫の治まらないジヴはそのまま、行き先も決めずにがむしゃらに歩き続けることにした。
 
  3、小さな男の子

 一方その頃、ジヴが暮らしていた森を一人男の子がふらふらとさまよい歩いていた。
 その子は褐色の肌で、短くて黒々とした髪の毛をしており、質素な薄い布で出来た服を着ていた。足は裸足だった。まつげが長く、切れ長だが優しげな目をしていた。
 見たところ五歳くらいか。でも本当の年齢は本人にもよく分からなかった。
「お母さん…待っててね」
 その子はそれだけ呟くと、鬱蒼と茂る不気味な森の中を、当てもなく進んでいった。    

4、人食いトロル

 トロルにはいろんな種類がある。その中で人食いトロルとは、その名の通り人間を襲い、食料にしてしまうという恐ろしい種族だった。
 大人の人食いトロルの身長は二メートル半ほど。身体は茶色い毛に覆われ毛むくじゃらで、頭には尖った小さな角(角の数はそのトロルによってまちまち。ジヴは三本生えていた。)、金色に光る大きい目、それに氷柱のように鋭い牙が上と下に二本ずつあった。
この物語の主人公ジヴも、平均的なトロルと同じような姿をしていた。
 
  5、出会い

ジヴは家から飛び出した後、二キロほど離れた大岩の上で、頬杖を付きながらこれからどうしようかぼんやりと考えていた。このままおめおめと家に帰るもの癪だが、かと言って行く当てもない。
 ジヴは十何回目かのため息を付いた。その時だ。前方にある木の後ろに何か動くものを見つけた。
しばらく見つめていると、木の幹から突然ニュッと、枝のようなものが突き出てきた。
「な、なんや?」
 それは人間の子どもの腕だった。
ジヴが呆然としていると、今度は反対の腕も伸びてきて、おしまいに一人の男の子がぴょっこりと顔を出した。
「んー、ここどこだろ〜?分かんなくなっちゃったよ〜」
 男の子は右頬に付いた泥を腕でぬぐうと、木の陰から出てきて、周りを見回した。そこで初めて、自分の目の前に恐ろしいトロルがいることに気が付いた。
「う、うわぁ!」
 男の子も森に人食いトロルがいるという話は聞いていたので、それはもうびっくりした。慌てて逃げようとしたが、足がすくんでしまって動けなくなってしまった。
ジヴといえば、目の前に小さな人間が現れたことに、ある種拍子抜けに似た驚きを感じていた。
 本来の人食いトロルなら「少し早めの昼食が自ら目の前に飛び込んで来てくれた」と、舌舐めずりをしながら喜ぶところだったが、ジヴは男の子を見て今朝の母親とのけんかの原因を思い出し、悲しくなった。そして頭をたれたまま、全く動かなくなってしまった。
「……??」
 いつまで経ってもトロルが自分を襲ってこようとする気配がないので、男の子は不思議に思った。目の前のトロルはうなだれたまま、ずっと暗い顔をしている。
どうしても気になって、男の子は大胆にも一歩…二歩…三歩…と、少しずつジヴに近寄ってみることにした。そして、ついにジヴの真下まで来て、その膝に触れた。男の子と目が合っても、ジヴはただため息を吐くだけで、何もしてこようとはしなかった。
「…ね、ねぇ…トロル、さん?」
 男の子は思い切って声をかけた。
「なんやねん、ガキ」
「…!?しゃべれるの!?」
 男の子は驚いた。本来人間とトロルの間では会話なんか出来ないからだ。
「なんやねん、トロルが人の言葉分かったら悪いんか?」
 ジヴはあごを右手で支えながら、男の子には興味がないとばかりに息を吐いてそっぽを向いた。
「おじさん、僕を…食べないの…?」
 男の子はなおもしつこく話しかけてきた。
「うるさいやっちゃな。そんなに食って欲しいんかお前。…だったら食ったるわ!」
 すると突然ジヴはウォーー!と雄叫びをあげると立ち上がった。両手を振り上げ男の子を襲おうとする。男の子はびっくり仰天して、慌てて逃げ出した。
しかし、数メートルほど走ったところで、おかしなことに気付いた。トロルが全く追いかけて来ないのだ。男の子は後ろを振り返った。
 見れば、トロルはその場に突っ立ったままだった。
 男の子は不思議に思って、またジヴのところまでゆっくりと引き返してきた。
「おじさん…?」
「まだいたんかい、ガキ。食うてまうぞ、言うてるやんか」
「でも、さっきから僕のこと追いかけてこないよね?」
 男の子はもう一度ジヴの顔を覗きこんだ。疲れた様子で、男の子とは目も合わせようとしない。それを見て、男の子はトロルが自分を全く食べようとは思っていないことを悟った。
「今ちょうど腹いっぱいなんじゃボケ」
 ジヴがそう言った瞬間、獣のうなり声のような音が聞こえてきた。それはジヴの腹の音だった。ジヴは朝早く家を出てきた為、ろくにご飯を食べていなかった。
「お腹…空いてるみたいだね。おじさん、なんで嘘付くの?」
 男の子は疑問に思って尋ねた。
「うっさいわボケ!それにはこっちの事情って言うものがあんねん。それにさっきからお前おじさん言うてくるけどな、おじさんやない。ジヴっちゅー立派な名前があんねん!ジヴお兄さんや!分かったな?分かったらさっさと、うせんかい」
 しかし、男の子は自分を襲わない人食いトロルに興味を持った。自分を追い払おうするのを無視して、ニコニコしながら話し始めた。
「おじさん、ジヴっていうんだ。僕はね、キーゴっていうんだ。ジヴおじさんはこんなところでなにやってるの?」
 キーゴと名乗った男の子は無邪気にジヴに微笑みかけた。
「だから、おじさんちゃうって。お兄さん言うとるやろが!別に誰がここで何してようが人の勝手や」
「そっか〜。それもそうだね。ねぇ、おじさん」
「だから…!…あー、もうなんやねん」
 ジヴはキーゴのあまりのしつこさについに音を上げた。キーゴはそんなジヴを見てついにクスクスと笑い出してしまった。
「僕、探し物をしていて道に迷っちゃったんだ。それでお腹がぺこぺこなの。何か食べ物持っていないかな?」
「なんでそれを俺に言うんや」
 ジヴは心底呆れた顔で言った。
「だって今目の前におじさんしかいないんだもの」
 キーゴは平然と答えた。ジヴは少し考えてから、意地悪そうな顔をして言った。
「うちに人間の肉でできたソーセージとハムあるけど、食うか?まあ、食い終わった後、お前もそのまま材料になる運命やけどな」
 それを聞いて、さずがにキーゴも怯えたような顔になり、黙って上目づかいにジヴを見つめた。