目的地にて
ナツハと少年
「常春」、まさにこの言葉がぴったりの暖かく明るい地で、ヒロタナツハが何かを歌いながらゆっくりと歩いていた。
それから約1分後、視線を前方に向けると、17歳前後の1人のセミロングヘアの美少年が座っていた。彼は穏やかな顔で、ぼんやりと空を見つめていた。
ナツハは、1人でいるその少年のそばに行って彼の隣にしゃがみ、優しく声をかけた。
「あなた、1人?」
少年はナツハの声に軽く驚いて彼女のほうを見ると、
「あ、はい」
と軽く答えた。初対面であるにもかかわらず、緊張する様子が全くない彼に、彼女は早速質問を始めた。
「あなたは何年ここにいるの」
「俺ですか。11年です」
彼はさらりと答えた。
「まあ、随分長くいるのね」
「はい…」
少年はそう答えながら一度うなずくと、少し明るい感じでナツハに尋ねた。
「お姉さんは何年ここにいるんですか」
彼女は相変わらず優しく答えた。
「私はまだ2年とちょっとよ」
「へえ、そうなんですか」
「ええ」
その直後、しばらく沈黙が続いた。2人は同じ方向を見つめていた。
やがて、少年は大きく伸びをすると、仰向けに寝転んだ。ふと横を見ると、1輪の花が彼のちょうど目の前にあった。
その花の色と形はキキョウに似ており、その香りはラベンダーのそれに似ている。
「あ、この花、よく見るけど…」
少年は、目を凝らしてそれを見た。ナツハは座ったまま、彼のほうを向いた。
「どうしたの」
「いや、この花さ、色がきれいだし、ほのかに甘い香りがするんですよ」
彼女も、彼の見ている花に目を向けた。そのとき、彼女はロマンチックにこう言った。
「本当に愛らしい花ね。この地にぴったり」
少年は、軽く笑って相づちを打った。
「そうですね」
ナツハの言葉は続いた。
「そして、あなたにもよく似合う」
少年は、思いがけない言葉に、うれしさを隠さずに彼女を見た。
「あ、ありがとうございます」
そして、紫色の愛らしい花に目を向けて、改めて彼女に目を向けた。