赤い帽子の
そこは公園の裏の出口にもなっていたので、ヒロミがバス停まで歩くと言う。てっきり待ち合わせた駅に戻るのだと思っていたが、浅草までこのバスで行けるのだということなので行くことにした。
浅草寺は賑わっていた。賑わいはいつものことなのだが、今日は何か祭礼があるのかもしれないと思いながら歩く。人混みの中だから必然的にヒロミが腕にすがって歩く。そして見たいものがあるときは手をつないで引っ張って行く。そのようなことをしていると、自分達が若くなったような錯覚をおこしてしまいそうになる。いや、かなりなっているのだろう。
赤い帽子が赤い綿飴を買う
赤い帽子が丸い声を出す
赤い帽子が赤い声で笑う
赤い帽子が手をつなぐ
赤い帽子とデート
赤い帽子は、はぐれることなく側にいてオレの心も赤くしてくれている。ささいな事が楽しく思えて笑ってしまう。
やっと人混みから離れて、あらためて赤い帽子を見る。形の良い丸い頭に乗った赤い丸い帽子。
「その帽子似合ってるね」
今更というタイミングでそう言ったのだが、ヒロミはまんざらでも無い様子で微笑んだ。
「これね、バザーで買ったのよ。安かったなあ、あ、お参りして行こう」
ヒロミは、財布からお賽銭用に小銭を出してから、笑って手元を見ている。覗いてみるとその手にはお賽銭にしては多額の、そして半端の硬貨があった。
赤い帽子を手に入れた由来を
キミが話してくれたのだけど
お賽銭のために財布を出していて
つい買った帽子の値段を手にとって
賽銭箱の前で困った顔をするキミ
その後の照れ笑いも可愛いよ
お昼に入ったレストランでは大きめのテーブル席だったので、二人の帽子をテーブルの端に並べて置いた。それまで気づかなかったのだが、色と大きさがが違うけれど形が似ていた。
「こうして並べて置くと、俺たちの分身がここにいるみたいだなぁ」
「あ、ほんとだ」
「監視役?」
「同じ人物を監視するって変じゃない」
「そうだね、じゃあ、ただの帽子ということで」
また色々なことを話した。ある程度はお互いの作品の中に、事実あるいは少し誇張したり美化したりしたエピソードがあることは感じている。もちろん全くの想像のシーンだってある。
家に帰って、思い出す一日。
赤い帽子が赤い綿飴を買う
赤い帽子が丸い声を出す
赤い帽子が赤い声で笑う
赤い帽子が手をつなぐ
赤い帽子とデート