赤い帽子の
それぞれがある理由によって独身になって、あるいは気がつけばまだ独身だとういう人達が、ある頃から寂しさを癒やすために始めたSNSのコメントによって知り合う。そんな世の中になっていた。その投稿が日記という内容だったら履歴書のようなお見合いの資料よりも深くその人物を知ることが出来るのかも知れない。
それが文芸という同じ趣味のコミュニティーに入っていれば尚更だ。ヒロミというネームの人物が書く妙に説得力のある作品も、当初は何かイヤミな男だなあと思っていたのだが、別の作品を読んでみて、(あ、女性だったのか)と急に親しみを覚えてしまっていた。相手の性別がわかって自分の思いも変わってしまう。そんな自分の感覚を嗤ってもいたのだが、コメントのやりとりをしているうちに、昔から知っていたような気にもなってきていた。
普段はコミュのメールでのやりとりであったが、ある日有川浩の「植物図鑑」という小説をヒロミに紹介したときに、「ヘクソカズラが見たいな」などとメールにあったので、オレは笑ってしまった。「だから見に行く?」とメールで返した。辛うじて40代のヒロミにはもう働き始めた息子がいるらしい。オレはもう50代だ。互いに独身であっても、配偶者を探しているわけではなかった。心のどこかで少しの期待のようなものはあるにしても。
* *
ヒロミの顔は写真によって知っていたのだが、ヒロミはオレを知らない。だから身長だけ知らせてあった。待ち合わせた駅前は混雑しているからと、指定された駅近くのファミリーレストランの前に向かった。信号は赤だった。メールに(目印に赤い帽子を被っていくね)とあったから、横断歩道の向こう側に見える赤い帽子がヒロミなのだろう。彼女の視線はこちらを向いているがまだオレを特定できていないようだ。
信号が青に変わって人の流れとともにヒロミに向かって行く。聞いていたよりも小さく見えるどこか頼りなげな風情の彼女の前に立って、「こんにちは」と声をかける。ヒロミが少しの警戒心を残したままオレを見上げた
赤い帽子が丸い頭に載っていて
あまりに可愛いものだから
自分も若返ったような気になる
そして和みを感じさせてくれた
出会うのが遅すぎかと思っていたが
その赤い色は歳を忘れさせる
「ルソーさん?」
オレは画家のアンリ・ルソーが好きなのでルソーと名乗っていた。
「そう、ヒロミさんだよね」
「あ、信号待ちしている時に見えていたんだけどね、違うかなあと思ってた」
「こっちなの」とヒロミが歩き出す方向へ一緒に歩いた。
それが文芸という同じ趣味のコミュニティーに入っていれば尚更だ。ヒロミというネームの人物が書く妙に説得力のある作品も、当初は何かイヤミな男だなあと思っていたのだが、別の作品を読んでみて、(あ、女性だったのか)と急に親しみを覚えてしまっていた。相手の性別がわかって自分の思いも変わってしまう。そんな自分の感覚を嗤ってもいたのだが、コメントのやりとりをしているうちに、昔から知っていたような気にもなってきていた。
普段はコミュのメールでのやりとりであったが、ある日有川浩の「植物図鑑」という小説をヒロミに紹介したときに、「ヘクソカズラが見たいな」などとメールにあったので、オレは笑ってしまった。「だから見に行く?」とメールで返した。辛うじて40代のヒロミにはもう働き始めた息子がいるらしい。オレはもう50代だ。互いに独身であっても、配偶者を探しているわけではなかった。心のどこかで少しの期待のようなものはあるにしても。
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ヒロミの顔は写真によって知っていたのだが、ヒロミはオレを知らない。だから身長だけ知らせてあった。待ち合わせた駅前は混雑しているからと、指定された駅近くのファミリーレストランの前に向かった。信号は赤だった。メールに(目印に赤い帽子を被っていくね)とあったから、横断歩道の向こう側に見える赤い帽子がヒロミなのだろう。彼女の視線はこちらを向いているがまだオレを特定できていないようだ。
信号が青に変わって人の流れとともにヒロミに向かって行く。聞いていたよりも小さく見えるどこか頼りなげな風情の彼女の前に立って、「こんにちは」と声をかける。ヒロミが少しの警戒心を残したままオレを見上げた
赤い帽子が丸い頭に載っていて
あまりに可愛いものだから
自分も若返ったような気になる
そして和みを感じさせてくれた
出会うのが遅すぎかと思っていたが
その赤い色は歳を忘れさせる
「ルソーさん?」
オレは画家のアンリ・ルソーが好きなのでルソーと名乗っていた。
「そう、ヒロミさんだよね」
「あ、信号待ちしている時に見えていたんだけどね、違うかなあと思ってた」
「こっちなの」とヒロミが歩き出す方向へ一緒に歩いた。