故郷に帰りたい
ピザが運ばれるのを待っている間、包帯男はふいに口を開いた。
「そなたに打ち明けよう。余は好んでここにいるのではない」
「…え!?どういうことでしょうか」
「余は、故郷への帰還を望んでいるのだ」
「故郷」という言葉を聞いたとき、T氏の頭の中はさらに混乱した。
「あなたの故郷とは、どちらでしょうか。やはりあの砂漠の国ですか」
包帯男は答えた。
「うむ、いかにも。余は悠久なる砂漠の王国で生まれ育ち、そして息絶えた」
(やっぱりこの人は、大昔のファラオなのか)
T氏は難しい顔をして包帯男の話を聞いていた。
「では、なぜこの国にいるのですか」
「……25年以上昔の話になる。余が目覚めたとき、聞いたことのない言語が聞こえた」
彼の話は続く。
「外の様子をうかがうべく余は棺を開いた。しかし、どうだ。そこにいたのは面識のない人々ばかりか、目の前の光景さえ見慣れないものであった」
T氏は、頭の中で彼の話に基づいた再現ドラマを上映した。眠りから覚めて周りを見たら、訪れたことのない場所で、聞いたことのない言語が話されるのを聞いたら、パニックを起こさない者はいまい。もし自分がこの人の立場だったら……、そう思うと、頭が痛くなりそうになる。
「外界を見に棺を出た余の姿を見た者たちのうち、ある者は叫び声を上げながら一目散にその場を後にし、ある者は失神し、さらに余に殴りかかろうとする者さえいた始末だ」
理由もわからず知らない国に連れてこられたうえ、周囲の人々にも受け入れられないとは。T氏は包帯男に同情の眼差しを向け、こう言った。
「それは大変お気の毒に…」
包帯男は、再び深くうなずいた。
「余の心を理解する者と会うことができて、余は実にうれしい」
包帯男は穏やかで優しい表情で相手を見つめていたが、両肩はかすかに震えていた。
「余は…余は故郷の地を再びこの足で歩みたい。妻と娘たちの顔を見たい。そして語り合いたい」
こんな気持ちで25年以上ここで過ごしていたのか、と思ったT氏は思わず彼の手を握った。決して妙な感情からではない。