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意味を持たない言葉たちを繋ぎ止めるための掌編

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夜の水溜まり



 僕たちは夜のプールにいた。僕はあっという間に素っ裸になって、プールへと飛び込んだ。ドボン、という音が静寂な夜を引き裂いた。大きな水しぶきがあがる。僕は彼女の裾を引っ張って、プールのなかに引きずり落とした。彼女は小さな悲鳴をあげながら、プールのなかに落ちた。彼女がプールに落ちるときの音は、ドボンではなくて、ポチャンに近かった。プールに落ちた彼女はとても驚いた顔をしていたけれど、しだいに表情が綻んできた。
「気持ちいいね」と彼女は言った。それから、プールに仰向けになりながら、ぷかぷかと浮かんだ。
「夜のプールも悪くないだろう?」と僕は言った。
「悪くないね」と彼女は言った。「夜のなかで、水のなかに入るとさ、なんか自分のなかにあるドロドロとした訳のわからないものが、溶けてなくなっていくような気がする。とっても……なんだろうな。透明な気持ちになるような気がする。少なくとも、今の私はとても透明」
「全部、この場所で洗い流せばいんだよ。厭なものはさ、夜の水のなかに洗い流すんだ。夜のプールって、きっと、そういうためにあるんだよ」
「そんなこと、素っ裸の人に言われても、何も響かないけれどね」彼女はそう言って、小さく笑った。僕もつられて笑った。空を見上げると、月が見えた。三日月がさらに欠けたくらいの細長い月だ。照らす光はささやかなものだったが、僕たち二人を照らすには十分だった。