意味を持たない言葉たちを繋ぎ止めるための掌編
おんがく
あのころ、私は音楽がなければ、生きていけない人間だった。
けれども、今は音楽を聴かずとも、生きている。
やらなければいけないことに、時間を奪われ、
音楽の失われた世界で、ひたすらに生きている。
あるとき街を歩いていると、あのころ聴いていた音楽が、
私の耳に流れ込んできたのだ。
その瞬間だ。私を締め付ける何かがいっぺんにどこかに飛び散って、
あのころ感じていた言い表せない気持ちに私を連れ去った。
私のなかから失われていたと思っていた音楽は、私のなかで生きていた。
もう一度、音楽のなかに潜ってみたい。
なぜなのか私は、そんなことをふと思ったのだ。
作品名:意味を持たない言葉たちを繋ぎ止めるための掌編 作家名:篠谷未義