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意味を持たない言葉たちを繋ぎ止めるための掌編

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レパネとレネルのみずいろの恋



「私は、自分の望むようにいろんな言葉を使いこなせるようになりたいの」レパネは病室の窓から外を眺めながら言いました。
「どうして?」レネルはベッドから上体を起こしてから、訊ねました。
レパネはレネルの方に振り返り、少しほほえんだあと、指を立てて先生のように語り始めました。「この世界にはいろんな言葉があるわ。言葉が世界中に氾濫していると言ってもいいわね。きっと私たちが知らないままでいる言葉ってたくさんあると思うのよ」
「うん、そうだね。僕だってそう思うよ」
「気持ちを言葉で表現することって大変。言葉を知っていないと伝えられないから。だからね、私は、氾濫している言葉たちを、私の体にすべて注ぎこみたいの。そうすれば、きっと今まで言葉が足らずにうまく伝えられなかった気持ちだって、きっと伝えられると思うの」
「確かに。君の言うとおり、僕も気持ちを言葉で正確に伝えることって大変だと思う。この点滴みたいに、いろんな言葉をからだにそのまま入れることができれば、きっと便利なのにね」レネルは右手の甲に刺された点滴を指さしながら、おどけて見せました。レパネはその様子を見て、にっこりと笑いました。レネルはそんなレパネの表情を見ることができて、とても嬉しく思いました。レネルは彼女のとびきりの笑顔がなによりも大好きだったのです。
「私はね」とレパネは言いました。「言葉で人の心だって救えるはずだって思うの。ひどく傷ついた心だってね、優しい言葉を紡ぎ出して、伝えてあげれば、きっと治せるはずなの」
「君は」とレネルが言いました。「君はさ、そんなことをしなくたって、今のままだって、充分優しいよ。今だってそうさ。ほら、君はこうして僕のところにお見舞いに来てくれているわけだしさ」
「それだけじゃ、だめなの。私はレネルに伝えるべき言葉をまだ持っていないんだもの」
「それはいったいどういう言葉だい?」レネルは訊ねました。
「言えないわ。だって、持ってないんだもの、私はまだ」
「きっと……それは僕は持っているものだよ。僕はさ、君に伝えたい言葉があるんだ。それも、たくさんね」
「それはいったいどんな言葉なの?」レパネは訊ねました。レパネは胸がドキドキするのを感じました。
レネルは少し黙ってから、こう言いました。「言えないよ。だってさ、僕にはその言葉を君に伝える勇気がまだないんだ」
レパネは少しだけ残念な気持ちになりました。それから少しからかうように笑いながら、レネルに「いくじなし」と言いました。
「でも」とレネルは硬い表情で言いました。それから、ゆっくりとベッドから立ち上がり、レパネのいるところへ歩きはじめました。
レパネは慌てて「からだに良くないじゃない。座ってないとだめだよ」と言いました。
「いいんだ」とレネルが言いました。「僕には、まだ君にこの言葉を伝える勇気はないけれど」それから少し沈黙してから、レパネの目をしっかりと見つめました。「行動でなら、きっと君に伝えることができるから」

そう言い、レネルはレパネをぎゅっと抱きしめたのです。レパネは顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうにうつむきました。

そこで、レパネは気づいたのです。言葉がなくたって、気持ちを相手に伝えることができるんだ、と。レパネはゆっくりと顔を上げ、レネルの顔をしっかりと見つめてから、


レネルをぎゅっと抱きしめ返したのです。