純愛
シャボン玉
3月になってようやく温かくなったと思う。
今井は昼休みに近くの公園に出かけた。ベンチでのんびりとしていると、3歳くらいの女の子とその母親であろう30代の若い人が、シャボン玉を飛ばせていた。
「もっとゆっくり息をはくの」
少女は上手く出来ないようだ。
「こうするの」
母親のシャボン玉は大きくなって飛んで行った。
次々と飛んでいく。
「ママじょうず」
今井はしばらくぶりに子供のころを思い出し、自分は子供にこのような事をした事のない事に気が付いた。多分妻がしてくれていたのだろう。
子供は今井の方に歩いて来て
「シャボン玉見せてあげる」
と言った。
息を強く吹いたのだろう、シャボン玉は出来ずに液体が今井のスーツにかかった。
「すみません。これ使って下さい」
母親は白いハンカチを出した。
初対面の男の身体に触れては失礼と感じてのようであった。
「何でもありません。貸してくれるかな、それ」
少女は無邪気であった。
今井にシャボン玉の瓶とストローを差し出した。
大きく膨らませてみたがストローから離れる前に破裂してしまった。
「ママが1番じょうず」
母親は今井に一礼すると子供と、その場を離れた。
シャボン玉とんだ・・屋根まで飛んだ
歌声が聞こえていた。
温かなひと時、透き通るような親子に出会った気持ちになった。