純愛
純愛
札幌駅に降りたとき、僕は思わず身震いをした。
関東から来たぼくには10月の札幌は思ったより寒かった。
駅舎を出るとき、どこに行こうかと迷った。
はっきりとした目的はなかった。
札幌の街が見たかっただけなのだ。この街の空気が吸ってみたかったのだ。
札幌の秋の星や月を見たかったのだ。
まったくの偶然でメール友達が出来た。其の人がこの札幌に住んでいる。
ぼくには妻があり、彼女には夫がいた。
別にそんなことは初めは何の関係もなかったのだが、メールを交換して行くうちに、僕は彼女に何かを感じ始めていた。
彼女もそう感じているようであった。
僕は彼女の携帯の番号を知ってた。ここから電話をすれば彼女は来てくれるだろう。
でも僕はそんなことのためにここまで来たのではなかった。
彼女の家庭を壊すつもりはない。
まして、自分の家庭も壊れることを知っている。
ぼくが札幌に向かう電車からメールをしたとき、彼女は電車に乗っていると返事が来た。其の時ぼくは2人で電車に乗っているような錯覚を感じた。
今は、その電車を捜し乗って見たい気持ちなのだ。
まだある。
どこか知らないが、綺麗なターコイズ色をした池。
立ち枯れたダテカンバの木がある。
綺麗な水の色は彼女の心の様な気がした。
枯れたダテカンバも彼女の心の様であった。
ぼくにはどちらが本当の彼女の心なのかは解らなかったが、その池も探してみたい。
ときどき揺れ動く彼女の気持ちを、ぼくは支えてあげたい気持になる。
ぼくは札幌の街に出た。
妻以外の人を好きから、今は愛を感じ始めていたのかもしれない。
ただこれ以上彼女に近づきはしない。近づけない。
ぼくは虚構の街を歩いているのかもしれない。
ぼくは夢のなかにいるのかもしれない。
もし虚構であるなら彼女に逢いたい。
もし、そうであれば彼女を思いきり抱きしめたい。
彼女を想わせるロングヘァの女の人がぼくを見ているような気がした。
駄目だ、彼女に逢わずに明日は家に帰るのだと自分に言った。