真理子の勇気
暖飯器
真理子はいつも昇降口の脇にある箱のようなものを不思議に思っていた。
濃い緑色で、縦横150センチメートルほどの大きさであった。
12月になってそれがなんであるかが解った。
生徒の弁当を温めるものであった。
用務員のおじさんが七輪に炭を入れていた。
「ごくろうさまです」
「先生は弁当持ってきますか」
「はい。持ってきてます」
「だったら、ここに入れてみて、美味く食べられるよ」
「職員室には電子レンジがありますから」
「全然違うから」
「そうですか、じゃぁ入れさせてもらいます」
真理子は弁当を持ってきておじさんに渡した。
観音開きの扉を開けると、生徒の弁当がクラス別に入っていた。
炭の臭いがして来た。
「懐かしい、炭の臭い」
「今は家庭では炭使わないからね」
「本当ですね」
「この炭も中国物なんです」
「時代は変わっていくって感じ、でもどうしてこれ使っているの。珍しい」
「県内でもここだけです。廃棄にするって事務長に言われてるんですが、自分が反対してます」
「炭おこし大変でしょう。黒くなって」
「弁当食べてみてください。生徒の『ありがとう』のことばがたまりません」