目的地まで
ヤスキが長い長い道を歩き始めてから40日たったときのことである。100メートルほど離れたところに、一対の巨大なこげ茶色の四角い物体が見えた。それらの間には、何か白っぽいものが見える。数秒間、彼の動きが止まった。
その直後、彼の胸にたくさんの希望が足音を立てて集まってきた。ヤスキは一度深くうなずくと、歩き始めた。かなり疲れているにもかかわらず、彼の歩く速度は、さっきまでよりいくぶん速かった。
50メートルほど進むと、一対の巨大なこげ茶色の四角い物体の正体が、大きく開いた巨大な扉であることがわかった。ヤスキは扉の間を見た。そこは、目に優しい光で包まれていた。彼は喜び交じりにため息をつくと、軽く駆け出した。
ほどなく扉のすぐ前に行くと、口と両目を閉じて、伸びをするように深呼吸をした。そして、ゆっくりと進み、「目的地」に一歩、二歩と足を踏み入れた。
そこは、彼が今まで見たことも、訪れたこともない場所であった。その光景のあまりの美しさと心地よさに、彼は思わず手で両目を拭った。
ヤスキがふと前方を見ると、10メートル先に何か人影が見えた。そう、この地に行くまでの道で出会った、あの人である。
ナツハは前方にいるヤスキに気付き、喜びを胸と顔いっぱいに彼のもとに駆け寄り、その肩をひしと抱いた。彼は軽く歯をむき出してほほ笑んだ。数秒間彼を抱き締めたあと、彼女は両手を彼の両肩の上に置き、彼の目を見て言った。
「ね、私たちの『目的地』は同じって言ったでしょう?」
ヤスキは、笑みを浮かべながら無言でうなずいた。
― 2人の足元には、美しい赤紫色の花が咲いていた。