目的地まで
一方、サカイヤスキは分かれ道を通っていた。彼の通っていた道は今までとは違い、曲がりくねっているばかりか、先に進むごとに草原が荒野になり、風がどんどん強くなっていく。
この寂しい光景を目の前にして、彼は急に孤独を感じた。不安を抱えたまま500メートルほど進んだあと、立ち止まって後ろを振り返ったが、歩いてくる者は誰一人いなかった。ため息をつき、彼はうつむきかげんで歩きはじめた。
ヤスキは、歩く気になれない道を随分歩いたが、自分の周りには相変わらず荒野が広がり、吹いている風も彼の息を止めそうなほどの強さになっている。彼にとって、わずか1分ですら10倍の長さに感じられた。
ついにヤスキは、道中で両手と両膝を突いて倒れ込み、ゆっくりと、強めの呼吸をしながら、目の前の枯れ草を見つめた。
( いつまでこんな悪条件の道を歩かなきゃいけないんだ。こんなんで、本当に「目的地」に行けるんだろうか )
弱々しく膝を突いたまま、ヤスキは多くのことを思い巡らしていた。彼の過去はアップダウンが激しかったし、そのために周囲の人にたくさん迷惑を掛けた。彼の脳内で、彼らの姿がリレーのように次々と表れた。
できることなら、この道を引き返して、もといた場所に戻り、彼らに謝りたい。しかし、それができないのは百も承知だ。彼の顔面を濡らしたのは、歩いていたときにかいた汗だけではなかった。
そうこう思っているうちに、ヤスキの脳内にはナツハが現れた。彼女は、今の自分と全く逆のコンディションの道を歩いているに違いない。そう思った彼の眉間にはしわが寄っていた。
( 何であの人はまっすぐな道を進み、俺は嫌な道を通らなきゃいけないんだ )
彼は心の中でそうぼやくと、道の上で仰向けに寝ころんだ。曇った空を見ても、鳥の1羽も飛んでいない。
― 彼は、自分が何を恐れているのか、自分が何者なのかさえわからなくなった。
それからどれくらいたっただろうか。ヤスキの心には、ナツハの顔がクローズアップで映っていた。無言で彼女を見つめていると、彼は
「はっ」
と小さな声を漏らした。彼女の瞳が、欺きの色を少しも見せなかったことを思い出した。彼は起き上がると、膝を突いたまましばし頭を下げた。
そのあと、彼は立ち上がって再び荒野の中の道を歩き出した。歩いては休み、歩いては休みを、何度も何度も繰り返した。