ツナガル
男 ああ、いや、…作者のことは知らんのです。
女 そうなんですね、すみません。
男 あ、いえ。
女 …。
男 …、でも、これは、面白いと、思う。
女 …。
男 …。
女 でしょ?
男 はい。
女 私もはまってるんです、「ヴィクセン」。
男 あ、この巻ですか?
女 あ、いえいえ。ちなみに、誰ですか?
男 え、誰って?
女 どの子が好きですか?
男 ああ、僕は、みさきちゃんが。
女 あら。
男 ん?
女 私といっしょ。
男 そうなんですね。
女 けなげですよね、彼女。
男 ええ、人から求められることに疲れているのに、人を求めずにはいられないんだ。
女 そう、自分の求めているものと、他人が求めているものが違うの。
男・女 …、わかります。
女・男 わかりますか。
男・女 わかります。
店員 ありがとうございましたー。
☆男、漫画を置き、電話機のもとに行く。ひとつ手に取り、電話線を入れる。
女 ぷるるるるるる、ぷるるるるるる、ぷるるるるるる、ぷるるるるるる。
☆男、女の方を見る。
男 はい、もしもし。
女 はい、もしもし。
男 え?
女 へんなの、自分から電話したくせに。
男 …、そうか。
女 そうですよ。
男 それじゃあ、あの漫画喫茶で会いましょう。
女 「ヴィクセン」の棚の前で?
男 来週は、最新刊が出るそうですよ。
女 そうだ、衝撃的だと言っていた。
男 楽しみですね。
女 ええ、とっても。
男 がちゃり。
店員 いらっしゃいませー。
☆店員、店内を見回し、漫画を縦にしたり横にしたりとならべかえる。
女 いつもそう。
☆M「カノン」C・I
女 おんなじところをくるくるしているの。手を伸ばせばいいのにって言うの。でも無理っても言うの。付き合いたいわけじゃないの。えっちをしたいわけでもないの。貴方を通じて、私を感じていたいだけなの。
店員 いらっしゃいませー。
女 でも、触れ合う人が変われば自分も変わると言うのなら、貴方を通じた私は、貴方の味が、するのかしら。貴方の色をしているのかしら。貴方の香りを…。私は、貴方を感じているのかしら。
男 …、わかります。
女 わかりますか。
男 電話線を入れました。
女 だから、電話がかかってきたんですね。
男 電話は、多くなくていいんです。でも、ないと不便だ。かかってこないけれど、かけられない。
☆男、女に近づき、被っている可愛らしい紙袋をはずす。
男 はじめまして。
☆女、男をまじまじと見る。
女 はじめまして。
☆男、女、漫画を見る。
男 あ。
女 一冊ですねぇ。
男 どうします。
女 しょうがないなぁ。
男 …。
女 …。
男・女 じゃんけんぽん!
☆M「カノン」Fで上げる。暗転。
おわり