ツナガル
「ツナガル」
お題『漫画喫茶、宝くじ当たった人』
■登場人物
○男
○女
○店員
電話機と漫画が散乱している。
男、板付き。明転。
声(女) ぷるるるるるる。
男 はい、もしもし。
声(店) あ、おれおれ、おれだけど。
男 僕には息子はおりません、がちゃり。
声(女) ぷるるるるるる、ぷるるるるるる。
男 はい、もしもし。
声(店) 私、覚えてらっしゃいますか?
男 はい?
声(女) あなたのいとこ。のおじのあねのともだちの息子です!
男 がちゃり。
声(店) ぷるるるるるる、ぷるるるるるる、ぷるるるるるる。
男 はい、もしもし。
声(女) あのう。
男 がちゃり。
声(店) ぷるるるるるる、ぷるるるるるる、ぷるるるるるる、ぷるるるるるる、ぷるるるるるる。
男 ただいま、留守にしております。ぴーという発信音のあとに、メッセージをお願いします。…、ぴー。
声(女) 西神印刷の吉永です。ミナミ、お前、無断欠席かよ。連絡くらいしろよ社会人だろ。六億なんて当ててもな、そういうところをちゃんと。
男 がちゃり。
声(男) ぷるるるるるる、ぷるるるるるる、ぷるるるるるる、ぷるるるるるる。
☆男、電話機をひとつ手に取り、電話線をはずす。
声(店) ぷるるるるるる。
☆男、いそいで別の電話機の電話線をはずす。
声(女店)ぷるるるるるる、ぷるるるるるる(えんどれすえいと)。
男 あっ…、あっ…。わかった、わかったから、…やめて、もうやめて。
☆M「カノン」C・I
☆男、漫画をひとつ手に取り座る。幸せそうな顔で読む。
☆店員、女、可愛らしい紙袋を被ったままイリ。電話線をひとつずつはずしていく。
女 いつもそう、おんなじところをくるくるしているの。手を伸ばせばいいのにって言うの。でも無理っても言うの。付き合いたいわけじゃないの。えっちをしたいわけでもないの。貴方を感じていたいだけ。ううん、うそね。うそついた。ごめんなさい。ほんとうは貴方を通じて、私を感じていたいだけなの。貴方も私を通じて貴方を感じていればいいじゃない。ねぇえ、わかるでしょ。
☆女ハケ。M「カノン」F・О
声(店) ありがとうございましたー。
☆店員、店内を見回し、漫画を縦にしたり横にしたりとならべかえる。
☆女イリ
女 こんにちは。
店員 いらっしゃいませー。あ、お久しぶりですねぇ、なすさん。
女 お久しぶりです。入ってますか?
店員 なすさんが追ってるやつならだいたい入ってる。
女 よかった。
店員 相変わらずですね。買えばいいのに。
女 いやー、ちがうんだなぁ。
店員 なにが?
女 こう、たくさんある中から選べるのがいいんじゃないですか。
店員 いっちょんわからん。
女 よし、今日はぎゃーさん祭りだな。
店員 堅いですねぇ。ぎゃーさんなら「つべ」かな?
女 いや、「ヴィクセン」です。
店員 あ、「ヴィクセン」か。いや、わかるよ。自分はケチャップ本誌で追ってますもん。
女 あ、そうなんだ。
店員 今週は、衝撃的でしたねぇ。
女 ネタバレ禁止な。
店員 えー。…で、なすさんはだれ?
女 みさきちゃんです。
店員 けなげですよね、彼女。
女 そうなの。そっちは?
店員 いやー、さゆりかなぁ?
女 あは、わかる。そうっぽい。
店員 そう?
女 うん。
店員 アホの子すきなのよ。二時間でしょ。
女 お願いします。
店員 それではごゆっくりどうぞ。
☆鼻歌で「ジャポニカ学習帳」とかを歌いながら、お目当ての漫画を探す。手に取ったり、戻したり。あたりを見回して、男の読んでいる漫画を覗く。
女 あ、堅いなぁ。
☆女、男の横に座る。ふわふわする。
店員 なす、今日はずいぶん飲んでるな。
女 はい、いささか飲みました。
店員 吐かなくて大丈夫か?
女 大丈夫です。
店員 そうか。
女 先輩、漫画がお好きなのですね。
店員 まあな。
☆女、近くにある漫画を手に取る。
女 ぎゃーさんかぁ、堅いなぁ。
店員 面白れぇもんな。はやちゃんなんて、うち来ても漫画読んでるだけだもん。
女 ですってよ、はやとさん。
男 …。
店員 世界に入ってら。
女 んふふふ。
店員 …。
女 …。
店員 漫画って、独りで読むもんなんだなぁ。
女 え?
店員 読んだ後に他の人と話したりとか、ファン同士で繋がったりとかはあるだろうけど、読んでる時はひとりだもんな。
女 …、そうですね。
店員 人って、他人との触れ合いの中で自己を形成していくもんだと思うんだ。触れ合う人が変われば、自分も変わる。自分探しの旅なんて、環境の変化で新しい自分を形成しようなんてもんだろ。
女 なんか、ずっしりきますね。
店員 こと、何かを受け取るなんてことは、独りでしかできないことなのかもな。漫画にしろ、映画にしろ、舞台にしろ、エンタメなんてそんなもんか。
女 だから、読み終わったあと、見終わったあとに他人を感じようとするのかも。感想言ったりとか、意見言ったりとか。
店員 そうだな。いや、他人を感じることで、自分を感じてるのかもな。
女 …。
店員 カップ麺食べるけど、食う?
女 いただきます。
店員 はやちゃんは?
☆男、首を横に振る。
店員 お湯沸かすか。
☆店員、ハケ。
☆女、男をじっと見る。近くによって漫画を覗く。男にもたれかかろうか思案した後、また距離を取る。ふわふわする。
女 風あたってきます。くるくるするもん。
☆男、手をあげる。女、ハケ。
声(店) あれ、どうした?
声(女) 風あたってきます。
声(店) 風邪ひくなよ。
☆男、顔をあげる。周りを見るが誰もいない。電話もならない。また、漫画に目を落とす。
声(店) ありがとうございましたー。
☆店員イリ、店内を見回し、漫画を縦にしたり横にしたりとならべかえる。
☆女イリ
女 こんにちは。
店員 いらっしゃいませー。あ、なすさん。
女 また来てやりましたぜ。
店員 へへ、毎度どうも。いつも通りかな?
女 お願いします。
店員 二時間ね、ごゆっくりどうぞ。
☆鼻歌で「こぎつね」とかを歌いながら、お目当ての漫画を探す。手に取ったり、戻したり。あたりを見回して、男の読んでいる漫画を覗く。
女 またか、好きだなぁ。
男 …?
女 いえ、すみません。
男 …、こちらこそ。
女 …。
男 …。
女 お好きなんですか、ぎゃーさん。
男 ぎゃーさん?
女 いや、読まれてるから。
お題『漫画喫茶、宝くじ当たった人』
■登場人物
○男
○女
○店員
電話機と漫画が散乱している。
男、板付き。明転。
声(女) ぷるるるるるる。
男 はい、もしもし。
声(店) あ、おれおれ、おれだけど。
男 僕には息子はおりません、がちゃり。
声(女) ぷるるるるるる、ぷるるるるるる。
男 はい、もしもし。
声(店) 私、覚えてらっしゃいますか?
男 はい?
声(女) あなたのいとこ。のおじのあねのともだちの息子です!
男 がちゃり。
声(店) ぷるるるるるる、ぷるるるるるる、ぷるるるるるる。
男 はい、もしもし。
声(女) あのう。
男 がちゃり。
声(店) ぷるるるるるる、ぷるるるるるる、ぷるるるるるる、ぷるるるるるる、ぷるるるるるる。
男 ただいま、留守にしております。ぴーという発信音のあとに、メッセージをお願いします。…、ぴー。
声(女) 西神印刷の吉永です。ミナミ、お前、無断欠席かよ。連絡くらいしろよ社会人だろ。六億なんて当ててもな、そういうところをちゃんと。
男 がちゃり。
声(男) ぷるるるるるる、ぷるるるるるる、ぷるるるるるる、ぷるるるるるる。
☆男、電話機をひとつ手に取り、電話線をはずす。
声(店) ぷるるるるるる。
☆男、いそいで別の電話機の電話線をはずす。
声(女店)ぷるるるるるる、ぷるるるるるる(えんどれすえいと)。
男 あっ…、あっ…。わかった、わかったから、…やめて、もうやめて。
☆M「カノン」C・I
☆男、漫画をひとつ手に取り座る。幸せそうな顔で読む。
☆店員、女、可愛らしい紙袋を被ったままイリ。電話線をひとつずつはずしていく。
女 いつもそう、おんなじところをくるくるしているの。手を伸ばせばいいのにって言うの。でも無理っても言うの。付き合いたいわけじゃないの。えっちをしたいわけでもないの。貴方を感じていたいだけ。ううん、うそね。うそついた。ごめんなさい。ほんとうは貴方を通じて、私を感じていたいだけなの。貴方も私を通じて貴方を感じていればいいじゃない。ねぇえ、わかるでしょ。
☆女ハケ。M「カノン」F・О
声(店) ありがとうございましたー。
☆店員、店内を見回し、漫画を縦にしたり横にしたりとならべかえる。
☆女イリ
女 こんにちは。
店員 いらっしゃいませー。あ、お久しぶりですねぇ、なすさん。
女 お久しぶりです。入ってますか?
店員 なすさんが追ってるやつならだいたい入ってる。
女 よかった。
店員 相変わらずですね。買えばいいのに。
女 いやー、ちがうんだなぁ。
店員 なにが?
女 こう、たくさんある中から選べるのがいいんじゃないですか。
店員 いっちょんわからん。
女 よし、今日はぎゃーさん祭りだな。
店員 堅いですねぇ。ぎゃーさんなら「つべ」かな?
女 いや、「ヴィクセン」です。
店員 あ、「ヴィクセン」か。いや、わかるよ。自分はケチャップ本誌で追ってますもん。
女 あ、そうなんだ。
店員 今週は、衝撃的でしたねぇ。
女 ネタバレ禁止な。
店員 えー。…で、なすさんはだれ?
女 みさきちゃんです。
店員 けなげですよね、彼女。
女 そうなの。そっちは?
店員 いやー、さゆりかなぁ?
女 あは、わかる。そうっぽい。
店員 そう?
女 うん。
店員 アホの子すきなのよ。二時間でしょ。
女 お願いします。
店員 それではごゆっくりどうぞ。
☆鼻歌で「ジャポニカ学習帳」とかを歌いながら、お目当ての漫画を探す。手に取ったり、戻したり。あたりを見回して、男の読んでいる漫画を覗く。
女 あ、堅いなぁ。
☆女、男の横に座る。ふわふわする。
店員 なす、今日はずいぶん飲んでるな。
女 はい、いささか飲みました。
店員 吐かなくて大丈夫か?
女 大丈夫です。
店員 そうか。
女 先輩、漫画がお好きなのですね。
店員 まあな。
☆女、近くにある漫画を手に取る。
女 ぎゃーさんかぁ、堅いなぁ。
店員 面白れぇもんな。はやちゃんなんて、うち来ても漫画読んでるだけだもん。
女 ですってよ、はやとさん。
男 …。
店員 世界に入ってら。
女 んふふふ。
店員 …。
女 …。
店員 漫画って、独りで読むもんなんだなぁ。
女 え?
店員 読んだ後に他の人と話したりとか、ファン同士で繋がったりとかはあるだろうけど、読んでる時はひとりだもんな。
女 …、そうですね。
店員 人って、他人との触れ合いの中で自己を形成していくもんだと思うんだ。触れ合う人が変われば、自分も変わる。自分探しの旅なんて、環境の変化で新しい自分を形成しようなんてもんだろ。
女 なんか、ずっしりきますね。
店員 こと、何かを受け取るなんてことは、独りでしかできないことなのかもな。漫画にしろ、映画にしろ、舞台にしろ、エンタメなんてそんなもんか。
女 だから、読み終わったあと、見終わったあとに他人を感じようとするのかも。感想言ったりとか、意見言ったりとか。
店員 そうだな。いや、他人を感じることで、自分を感じてるのかもな。
女 …。
店員 カップ麺食べるけど、食う?
女 いただきます。
店員 はやちゃんは?
☆男、首を横に振る。
店員 お湯沸かすか。
☆店員、ハケ。
☆女、男をじっと見る。近くによって漫画を覗く。男にもたれかかろうか思案した後、また距離を取る。ふわふわする。
女 風あたってきます。くるくるするもん。
☆男、手をあげる。女、ハケ。
声(店) あれ、どうした?
声(女) 風あたってきます。
声(店) 風邪ひくなよ。
☆男、顔をあげる。周りを見るが誰もいない。電話もならない。また、漫画に目を落とす。
声(店) ありがとうございましたー。
☆店員イリ、店内を見回し、漫画を縦にしたり横にしたりとならべかえる。
☆女イリ
女 こんにちは。
店員 いらっしゃいませー。あ、なすさん。
女 また来てやりましたぜ。
店員 へへ、毎度どうも。いつも通りかな?
女 お願いします。
店員 二時間ね、ごゆっくりどうぞ。
☆鼻歌で「こぎつね」とかを歌いながら、お目当ての漫画を探す。手に取ったり、戻したり。あたりを見回して、男の読んでいる漫画を覗く。
女 またか、好きだなぁ。
男 …?
女 いえ、すみません。
男 …、こちらこそ。
女 …。
男 …。
女 お好きなんですか、ぎゃーさん。
男 ぎゃーさん?
女 いや、読まれてるから。