からっ風と、繭の郷の子守唄 第16話~20話
1982(昭和57)年1月。「呑竜マーケット」で火の手があがる。
ほぼ一瞬にして、全域が消失してしまう。
近隣ビルと合わせて、焼失した面積は、660平方メートルに及ぶ。
横丁にあった30数店舗のうち、23店舗が全半焼した。
当時は2階もつくられており、住居になっていたそこから6世帯が
焼き出された。
幸いなことに死傷者はいない。
発見が早かったことと、多くの店が開店する前の時間帯だった事、
さらに上州特有の北風(からっ風)が吹いていなかったことが、
被害を最小限でくいとめた。
火事の原因はガス器具の不始末だ。
丸焼けになった呑竜マーケットは、建築基準法が制定される前に
建てられたものだ。
既存不適格な建造物として指定されていたために、その後に、
厳しい再建の道が待っていた・・・・
再建の話はのちほど、くわしく語りたい。
「貞園。準備は整った。
営業をはじめるから、そこにあるのれんを、表に出してくれないか。
ぼちぼと、呑龍マーケットの常連さんたちが出かけてくる頃だ」
貞園が、のれんを持って立ち上がる。
「呑竜マーケット」ほとんどの店舗が、5~6坪ほどの大きさだ。
日暮れとともに長年の常連客が馴染みの店に、今日もいつものように
集まって来る。
貞園がのれんを手にしたまま、店の戸口でそのまま固まった。
「あらぁ、やばい。空襲警報の発令です。いきなり、B29が飛んできました!
私の永遠の恋のライバルが、とても颯爽と登場です」
「美和子が来たのか?」
「はい。でも今の時間に美和子ちゃんが現れるというのは、変ですねぇ。
何か別の用事でもあるのかしら。
わたしは落ち込んでいるときに現れるなんて、やっぱり優しい女だな、
美和子は。
それにしても、今日も着物が素敵ですねぇ。美和子ちゃんは」
(21)へつづく
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第16話~20話 作家名:落合順平