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忘れちまった悲しみに

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特別な能力は持たないけれど何かしら特別な行為をしてみたいと思っていた。
繰り返される日常に形式通りの普通さを持ち込もうとする者にとって、それは必要な儀式だったのだ。
揺れ動くウインドウの季節、拡張性を志向しつつも閉鎖的になっていくモノクロ写真。
間違っていると知りつつも、検索してしまう流行の温もり。
なぜこうなってしまったのかはわからないけれど、どうして何もしなかったのかは知っている。
準備するには気後れで、選択するには手遅れで、行動するには臆病で、理解するには凡庸だ。
常識は知らなくてもいいけれど、世間知だけは守ろうと、まじめになるようなふりをする。
人に役立つように努力する献身という名の復讐で、世界に対する憐れさを要求する労働。
効率的なパターンで増殖する情報に、悪意のレッテル張りをする正当防衛。
あらゆる娯楽に隠される苦悩の尊厳が鉄を食う狼を養育する。
作品名:忘れちまった悲しみに 作家名:karan