「恋愛病院 不倫病棟」 第十回
「先生は経済的に恵まれてらっしゃるのでしょうし、奥様も出来た方だとお見受けします」
「違うんですよ。妻は私がこんな仕事していますから、呆れて好きな事を楽しんでいます。医師と言っても色々ですからね。急に母親とか父親の世話をしてくれと言ったところでするわけがありません」
「ではどうされるのですか?まさか先生が仕事辞めて介護されるとか?」
「綺麗事のように聞こえますが、母も父も私を医者にするために応援してくれました。医師とは人の命を救う仕事です。ここの恋愛病院では命と言うより心を救う仕事です。そんな私が親の介護を放棄するわけには行かないでしょう?浩二さんのお兄さんがお嫁さんに気を遣って母親を施設に入れたとしたら、きっとお母さんは裏切られた気持ちで悔しくて再婚するなどと申されているのだと思います」
「悔しくて?ですか。考えてもみませんでした。それになんでも兄に押し付けて自分はこうして傍観者のように先生に相談していること自体恥ずかしいと思えるようになってきました」
「そうですよ。お兄様と相談されて、お二人で出来ることを考えられたらいかがですか?
お金をお兄様から出して頂き、あなたがご自宅でお世話されるとかの方法です。まだお気持ちがしっかりとされているお母さまなら大丈夫ですよ」
「先生、今日は救われた気持ちになりました。考えたら私も頭がバカで入る大学もなく兄のように公立ではなく高い私学に入れてもらいました。自分で何でもやってきたように思っていましたが、親の世話も一つ出来ないだなんて、男として情けない思いです。
妻と話して受け入れてくれるよう相談します」
「そうなさってください。お母さまはきっと喜ばれて再婚話などなかったように振る舞われますよ。
浩二さんにとってお母さまはかけがえのない存在です。親孝行したいときに親は無し、などと言います。
気付かれたことはあなたの優しいそして強い人間性の現れです。
次は恋愛相談にでも来てください。いや、相談が無い方が幸せですかな、ハハハ~」
浩二は深々と鉄男に頭を下げて診察室を出て行った。
「先生、あの方後姿が立派に見えましたわ~」
「早奈枝くん、きみも男の値打ちが良くわかるだろう?決して外見じゃない。まして性器の大きさなんかじゃないんだよ。だろう?」
「ええ、でもひょっとして先生って小さいんですか?」
「バカなことを・・・試してみるか?」
「本気ですか?」
「嘘に決まっているだろう」
「ですよね~」
笑い声が響く。
作品名:「恋愛病院 不倫病棟」 第十回 作家名:てっしゅう