硝子文字
紫の手紙文字
封筒のなかからカビの匂いがしている
拝啓の文字はセピア色の便箋に載っているが
鉛筆書きの文字は毛糸で編んだように解れはじめていた
その一本の糸が
次の文字へとぼくを誘う
紫色の涙の痕が残っている文字は
涙ではないのだ
インクの痕なのだと思う
この手紙を読みながら
僕は君に返事を書いていた
その万年筆から滴れ落ちたインクなのだと
さようなら
の文字が僕の体を縛り付けた
君を追いかけ様とする僕の気持ちを
その文字は手裏剣のように
鋭い刃で飛んで来た
僕は咄嗟に過去を思い出した
「考えてみるよ」
その時の君の涙だったのかと
それから何度も読み返した記憶があった
そうか
その時に落ちた涙なのかと今になって気が付く
どうしているだろうかと
君も思う事があるのだろうか
過去を