はてしなくきれいな町へ
「この町の風紀は乱れています!
どうして人間への標識はないんですか!?」
道路には道路標識があるのに、
人間に向けての標識はどこにもない。
モラルだとかマナーだとか、
あいまいな物ではだれも守りはしない。
「私はこの町を最高の街にしてみせます!
今度からこの町はネガティブ禁止です!」
市長の命により、町に標識が建てられた。
ネガティブな会話をすることで町の空気が悪くなり、
ひいては町の治安が悪くなることを防ぐために。
すると、市長の狙い通り町は健全になった。
「やった! やっぱり私は正しかったのね!
この調子でどんどん町を良くしていかなくちゃ!」
市長はがぜんやる気を出して、
町にさまざまな標識を立てることにした。
「そこ! 食べ歩きすると町が汚れます!
ルールを守ってください! 食べ歩き禁止です!」
「町で走らないでください!
危険なうえ、せわしない行動は禁止です!」
「大声を出さないでください! 下品です!
この町にいる以上はルールを守ってください!」
市長が町をよりよくするため動けば動くほど、
ルールを破るような人が増え始めた。
「あんな小姑市長に従えるかよ」
「ルールは破るためにあるんだぜ」
「守らなくても見つからなきゃいい」
市長の頑張りと反比例して増える反逆者に悩んでいた。
このままではせっかくの町の風紀が乱れる。
「今後、標識を守らない人は死刑にします♪」
市長は今後ルールを守らない人間をことごとく死刑にした。
結果、標識を破るような不届き者はいなくなった。
「ようし、この調子でどんどん町をよくしていこう!」
町に標識があふれかえったころ、新しい人がやってきた。
「ようこそ、私の町へ。
ここでは人を不快にする要素がゼロのきれいな町なんです」
「たとえば?」
「鼻息がかかると不快なので、呼吸は禁止。
食べる姿が下品な場合があるので、食事も禁止。
不潔なので排せつも禁じている、とってもきれいな町なんです」
「それはすごい」
「みんな標識守ってくれているから、キレイなままです」
市長の話を聞いて、
一度自分の宇宙船に帰ると宇宙人は仲間に報告した。
「おい! 噂は本当だったぞ!
宇宙人だけが住める、宇宙人のための町が地球にあった!
地球人は誰もいないから安心だ!」
宇宙人たちは嬉しそうに人間に化けて町へ入っていった。
作品名:はてしなくきれいな町へ 作家名:かなりえずき