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毒の華

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episode1


恋っていうのは残酷だ。どんなに想ってもこの想いは報われない。伝えたくても伝えられない。きっと伝えてしまったら、壊れてしまう。地に落ち粉々になってしまったガラスの花瓶みたいに。


帰り道。空は赤色に染まっていた。太陽が街をオレンジ色に染める。
「今日さ、ある女子から告白されたんだ」
愛翔は空を仰ぎながら言った。
桜木愛翔(さくらぎ まなと)。愛翔とは小学生の頃に知り合った。あれは小学三年生の9月の始業式のこと。担任に紹介された愛翔はムスッとした顔を浮かべていて、周りをじっと睨んでいた。俺が抱いた愛翔の第一印象は”怖い”だ。愛翔は良いところのお坊ちゃんらしく、送り迎えとして黒い車がいつも校門の前に停まっていた。そのせいか、周りからは一歩引いた目と憧れの目を向けられていた。愛翔自身、周りにあまり関心がないようだった。話しかけられても、無愛想な返事が一言二言返ってくる程度。そんな愛翔はいつも本を読んでいて、一人の時間を過ごしていた。
「よかったじゃん」
「別に良くはないよ」
ほっそりとした顔に、瞳は切れ長の二重で薄い唇。黒髪でまぶたの上まで伸ばした前髪。スラッとした体型に手足が長く、身長は180あるかないか。そんな愛翔だから、周りの女子がほっとくわけがない。尚且つ、愛翔は俺が通う高校の一番頭の良いクラスにいる。つまり頭が良いということだ。こんな完璧な奴モテないはずがないだろ。
「で、どうしたの? 」
「まだ返事してない」
断ってくれ、と願う自分がいた。
俺は愛翔が好きだ。いつからだろうか。仲の良い友人では満足できなくなったのは。別に想いは伝える気はない。彼女ができたら応援するだけ。けれど好きな人に彼女ができるのはやっぱり辛いから、できないでと祈るばかり。仮に愛翔に彼女ができたとしても、俺はどうすることも出来ない。愛翔と俺は釣り合わなすぎる。イケメンの王子様とどこにでもいるような平凡な男が両想いになるはずがない。それに愛翔は俺のことは友達として見ているだろう。恋愛対象に入ってはいない。そして、1番の問題。俺は男で愛翔も男だ。これは乗り越えられない壁。
「ねえ、柚月」
邑楽 柚月(おうら ゆずき)という俺の名を低い声で呼ぶ愛翔。
「もし柚月に彼女が出来たら、俺に言ってよね」
「 ……別にいいけど、なんでだよ? 」
俺の問いには答えず、愛翔はまっすぐ歩いていく。オレンジ色に染まって。


10月。木々が色づく季節。
俺と愛翔は誰もいない屋上に来ていた。空は灰色の雲で覆われていて、いかにも雨が降りそうな天気だ。俺は屋上にある鉄製の柵の上に肘を置き、街を眺めていた。愛翔は柵にもたれかかり座っている。
「前話したあの女の子さ」
「告白してきた子? 」
愛翔は低く冷たい声で”うん”と言った。胸がドクッドクッと身体中に低く響き渡る。
「俺、その子と付き合うことにした」
聞きたくなかったその言葉に俺は愛翔を見ることが出来なかった。振り返る勇気が出なかった。
「おめでとう、愛翔」
「どうもありがと」
おめでとう?そんなこと露ほども思っていない。何でその子と付き合ったの?どんな女の子なの?どうして、どうして……
「彼女のこと大切にしろよな」
俺はこうすることしか出来なかった。愛翔に彼女が出来ようが出来まいが、俺と愛翔の関係は変わらないのだ。男友達というラインから出ることはない。それ以上の関係にもなれない。俺はただずっと愛翔を好きでいるだけ。いつか俺に愛翔よりずっと好きな人が出来るまで。
「もちろんだよ。だって好きだし」
何かがプツッと切れる音がした。
「あ、やばっ。バイトの時間だから俺帰るわ」
床に置いてあったカバンを手に取り、屋上のドアを勢いよく開けた。大きな音を立てながら俺は階段を下りていく。あのまま、あそこにいたら泣いてしまうところだった。
俺は学校を出てバイト先に向かった。目からでる透明な液体を手で拭う。男は泣くものではない。確かにそうだけれども、今だけは……今だけは……。辛い、悲しい、苦しみ、が俺の中で暴れる。涙が一つ二つと下に落ちる。悲しみが一気に押し寄せてきてそれが俺を包む。好きな人に彼女が出来た。その現実は俺の胸をひどく突き刺さった。たとえ叶わぬ恋でも。
作品名:毒の華 作家名:黒羽