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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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記憶の樹海から生還するために

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「ここが記憶樹海か……」

最近、なにかと物覚えが悪いので
記憶樹海に自分の記憶を捨てに来た。

ひとたび足を踏み入れればもう戻ってこれない。

そのため、誰もが知られたくない記憶を
人知れず捨てに来る「記憶樹海」と聞いていたものの……。

「そんなに迷わなそうだけどなぁ」

何度か分岐はあるものの、
道は都会の街を歩くよりはずっと単純だ。

「よし、捨てに行こう」

それでもしっかり忘れないように道順を覚えながら入る。
入口には壊れた看板が落ちていた。

「なんだこれ? どういう意味だ?」

樹海とまるで関係ないことが書かれていたので気にせず進む。

※ ※ ※

「……本当にいろいろ捨てられてるんだなぁ」

記憶樹海に進むと、持ち主不明の記憶が捨てられていた。

捨てられている記憶はどれもありきたりで平凡なものばかり。
国家機密に触れるようなものや、忌まわしき記憶のたぐいはない。

「ははぁ、みんな部屋の掃除感覚で捨てにきているんだな」

頭をすっきりさせて新しいものを覚えやすくする。
俺と同じ目的の人が多いんだ。


――覗きたい


「くぅっ……でもダメだ!
 こうして道からそれると絶対に迷うパターンだっ……!」

ちょいちょい落ちている白骨は、
道からそれて人の記憶を回収するうちに道を忘れたに違いない。


右・右・左・右・右

うん、大丈夫。
ちゃんと覚えているし道からもそれていない。
これなら無事戻れるだろう。


「ここらへんかな」

捨てるにはちょうどいい場所に到着した。
道順も覚えているし、まさかと思うが覗きに来る人はいないだろう。
一応、俺の記憶には個人情報あるっちゃあるわけだし。

倒木に腰をかけて、頭を振る。

ぼろぼろと頭の中から記憶が地面に落ち散らばる。

「さて、いらない記憶は……」

ふと拾った記憶は、2年前の旅行の記憶だった。
もうすっかり記憶に埋もれていて存在そのものを忘れていた。

「懐かしい! 旅行とか行ったなぁ!
 こんなところにあったなんて!」

懐かしさに背中を押されて記憶を頭に戻す。
楽しかった思い出が頭にあふれた。

「あ、こっちは前の彼女との思い出だ、懐かしいなぁ」

落とした記憶を頭に戻す。
もうすっかり忘れていたので、新鮮さと懐かしさで胸がいっぱいになる。

「これはスポーツ大会のときの記憶だ!」
「入院した時の記憶かぁ、懐かしい」
「うっわ懐っかしい! 引っ越し前の記憶だ!」

 ・
 ・
 ・

「あれ? 帰り道ってたしか……
 右・左・左・右・左……あれ?
 右・左・右・左・右? あれれ!?」

記憶を眺めているうちに日は落ちて、
帰り道に関する記憶はものの見事に忘れていた。

今になって、最初の看板の意味がわかった。


『大掃除のとき、漫画を読むような人は
 絶対に樹海へ入らないでください。』