究極リアリティー小説家
本庁の警察が到着するまでにはかなりの時間がかかり、
死体はどんどん悪くなり現場分析ができなくなる。
通報でやってきた刑事は頭を悩ませた。
「どうするか…このままじゃ事件は迷宮入りだ」
「どうやら私の出番のようですな」
やってきたのは旅館に泊まっていた小説家。
しかも、殺人事件のミステリーを専門としている。
「私はこれまでいくつもの殺人事件を書いてきた。
犯人の思考パターンも頭に蓄積されています」
「でも、それって創作でしょう?
実際の事件とはなんら関係が……」
「まあ見てなさい」
小説家は事件の状況と現場の荒れ具合をチェックした。
「ははぁ、わかりましたよ。
犯人は糸とハサミを使って密室を作り上げた。
犯行動機は、かなり突発的なものでしょうな」
「な、なぜそれがわかるんですか!」
「小説の中に同様のトリックがあるんですよ。
私は自分の体験したことしか書けない。
だから、同じ状況を見ればピンとくるんです」
「なるほど!」
小説家は部屋を見回り、被害者の持ち物をチェックする。
すると、あれよあれよと謎を解いていく。
「凶器はコレです。
私の別の小説で同じくだりがありました」
「犯人は髪が長い人ですな。
私の小説のひとつで同じトリックがありました」
「ここの血が取れている。
私の小説と犯人の人物像が一致しているなら……」
小説家は旅館の女将を指さした。
「あなたが、犯人ですね。
体のどこかに血の付いたハンカチがあるはずです」
「ちょっとあらためさせてもらいます」
警察が女将を調べ上げると、
小説家の言っていた通りハンカチが出てきた。
女将は観念したようにその場に崩れ落ちた。
「あの人が悪いのよ……。
あの人が……旅館なのにテレビがないなんて言うから……」
「話は署で聞きます」
警察は女将に詰めたい手錠をかけた。
小説家は満足そうな顔をしていた。
「やはり、私の小説は正しかったようですね。
リアルな創作というものはフィクションの壁を超えるのですよ」
「今回はありがとうございました。
おかげで犯人を逮捕できました」
「大事なのは自分の経験を落とし込むことなんです。
リアルな描写というのは実感がなければ書けない」
「経験があるんですね」
「ええ、もちろん」
事件が解決して数時間後、本庁の警察がやってきた。
「どうも、遅れてすみません。
本庁の警察です。殺人事件の犯人が2人いると……」
「はい、私です」
女将が前に出た。
「あと、こいつです」
すかさず警官が小説家を指さした。
「未解決の連続殺人犯です。すぐに手錠を」
作品名:究極リアリティー小説家 作家名:かなりえずき