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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅰ

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「取りあえず問題になりそうなところは消してあるから、大丈夫だ」
 確かに、文書の一部が事前に塗りつぶされた状態で印刷されていた。美紗はやや緊張した面持ちでそれを読み始めた。第1部長は、その様子を横目に見ながら、片桐が美紗に「部員の宮崎さん」と紹介した不在者の席に座った。直轄チームの面々は、上官に土産の菓子をすすめつつ、自分たちも再び饅頭を食べ始めた。
 しばらくして美紗が顔を上げると、直轄ジマの一同は一斉に注目した。美紗はしどろもどろになりながら、自分の思うところを話した。
「背景事情の解説内容が、最後の『分析』の部分にほとんど反映されていないように感じます。所見のところで、前半の説明と一致しない箇所もあるので、結論が矛盾しているように見えるというか……」
 第1部長が栗毛色の髪をかき上げて苦笑を漏らすと同時に、片桐を除くチームの面々がクスクスと笑い出した。
「それ、僕の書いたやつ……!」
 片桐が立ち上がって美紗から書類を奪い取った。
「そうだ」
 美紗からむくれ顔の片桐に視線を移した第1部長は、急に厳しい顔になった。
「前にも言っただろ。分析と結論を主観で書くな。肝心なところに自分の感想を書いてどうする。素人さんにも一目瞭然の駄文だぞ」
 片桐の向かいに座る富澤が、太い一文字形の眉をひそめ、ぼそぼそと美紗に耳打ちした。
「片桐1尉ね、今度、CS(空自の指揮幕僚課程)受ける予定なんだ。論述試験に備えて、空同士のよしみで日垣1佐が仕事と指導を兼ねていろいろ彼に書かせてるんだけど、今のところ、あんまり指導の甲斐がないみたいで」
 美紗は、悪いことを言ってしまったと困惑顔になった。
「そうだ、片桐。お前、彼女に文書指導してもらったらどうだ。飲み込みの悪い奴を手とり足とり指導するほど1部長は暇じゃないからな」
 比留川の痛烈な嫌味に、「直轄ジマ」の一同はゲラゲラと笑った。美紗は一人、冷や汗をかきながら、気の毒そうに片桐のほうをちらりと見た。しかし、当人は全く気にしていない様子で、「是非! お願いしまあす!」と大仰に頭を下げた。直轄チームの面々が爆笑すると、少し離れた所に位置する会計課のほうから怒鳴り声が聞こえてきた。
「直轄ジマ! さっきからうるさい!」