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筒井リョージ
筒井リョージ
novelistID. 5504
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SAGAシリーズ-2009-

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SAGA1 風蹄


蹄の音が聞こえた。

風に煽られ、枝同士がぶつかり合うザワザワという音に紛れ、ほら。
また一つ嘶き。

今日は一体幾日であったろう。
私の猶予は幾許であったか。

曖昧な程自身と世界の境界は、何度願おうとあれから幾筋も繋がらぬ。

弛緩する手足は、僅かばかりシーツに波を作るだけで、聳える山の攻略には不向きだ。
心許ないのは、頼りとするべきが胸の上に乗せられた小さなペーパーナイフだけだという事。

ザアザアザザア。
ザアザアザザア。

騒ぐ葉擦れの音に拍子をつけて、渇いた枝の弄る音。

忘れるなかれ。
忘れるなかれ。

この時は借り物だ。

騒がしい嵐を呼ぶ音に紛れて、ほらまた蹄鉄が火を吹いた。
遠くから押し寄せる風の馬の嘶きよ。

忘れるなかれ。
忘れるなかれ。

私の頂く時は借り物だ。

猶予はもう幾許も無い。
作品名:SAGAシリーズ-2009- 作家名:筒井リョージ