SAGAシリーズ-2009-
SAGA1 風蹄
蹄の音が聞こえた。
風に煽られ、枝同士がぶつかり合うザワザワという音に紛れ、ほら。
また一つ嘶き。
今日は一体幾日であったろう。
私の猶予は幾許であったか。
曖昧な程自身と世界の境界は、何度願おうとあれから幾筋も繋がらぬ。
弛緩する手足は、僅かばかりシーツに波を作るだけで、聳える山の攻略には不向きだ。
心許ないのは、頼りとするべきが胸の上に乗せられた小さなペーパーナイフだけだという事。
ザアザアザザア。
ザアザアザザア。
騒ぐ葉擦れの音に拍子をつけて、渇いた枝の弄る音。
忘れるなかれ。
忘れるなかれ。
この時は借り物だ。
騒がしい嵐を呼ぶ音に紛れて、ほらまた蹄鉄が火を吹いた。
遠くから押し寄せる風の馬の嘶きよ。
忘れるなかれ。
忘れるなかれ。
私の頂く時は借り物だ。
猶予はもう幾許も無い。
作品名:SAGAシリーズ-2009- 作家名:筒井リョージ