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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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秋の月

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ホテルを出たとき私はケイに
「車運転してみる」
 と言ってみた。
「左ハンドルは運転したこと無いわ」
「すぐ慣れるよ」
「事故ったら嫌だもの」
「人身以外ならいいよ。保険入っているから」
「でも・・」
「よし決めた」
私はケイより早く助手席に座った。ケイは運転席に座ると、私からハンチング帽子を取り、自分の頭に被せた。
「似合うかしら」
「似合うよ」
ケイはルームミラーで顔を観た。私はおおざっぱに車の説明をした。特にウインカーは良く説明した。オートマタイプなので、難しいのは右にハンドルを切るときの感覚だけだった。ケイの運転で十和田湖畔を回ることにした。通行量も少ない。目立った観光資源も無いからだろう。かえってそれが幸いした。30キロほどの速度でも迷惑にならなかったのだ。
「気持ちいいわ」
「帰りの高速道も運転したら」
「それは無理よ」
 昨晩の出来事など全く無かったような会話であった。私は後を引かなければよいと思っていた。ケイは運転で新しいことを覚えたはずだ。断っていれば、この爽快感も味わえないはずなのだから・・
「おじさまありがとう。今度小説書いてみようかな」
「そう、きっと新しい発見があるよ」
 途中で引き返し、帰路に就いた。
 高速道路を帰路に向かって走る事は、単調な時間であった。明日を待ちながら、もう少しだけケイとの時間も欲しい気がした。無言の中に、ケイも私も言葉を発していた。その言葉は空気に溶け込み、車の振動に変えられながら、ケイの体に、私の体に伝わって来た。初めて恋人が、手を絡めるように、ケイの手が、ハンドルを握る右手に触れた。
「温かな感触」
ケイの言葉より早くその手は私の手から離れた。私は、その手を探した。ケイの手も暖かく感じた。直線道路で、ハンドルは片手でもよかった。私はしばらくケイの手を握っていた。
東京に着いたらすぐに別れようと考えた。ケイも利発なはずだ。ケイも同じ気持ちでいるのだろう。


ケイと別れて、1年経つが、私のケータイにケイから電話が来ることは無かった。私もケイに電話をすることはしなかった。大阪行きの新幹線に乗るとき、雑誌を買った。見出しに『十和田湖畔』の短編小説が有ることに興味を感じた。作者は聞いたことも無い無名の作家だった。死を覚悟した女性が、生きる希望を抱く内容であった。難解な描写も多いが、好感の持てた作品に感じた私は転寝をしていた。






 
















































































 

作品名:秋の月 作家名:吉葉ひろし