からっ風と、繭の郷の子守唄 11話~15話
「貞園。標高1436mの最高到達点だ。
東京湾までさえぎるものは何一つない。
ここが関東平野で最初の、いちばん高い道路ということになる」
最高到達点に到達すると、周囲の眺望は狭くなる。
外輪山の中へ突入するからだ。
登り続けてきた道路が、最高到達点から下りにかわる。
外輪山に囲まれたカルデラ湖・大沼の湖面に向かって道路が下っていく。
康平がアクセルをゆるめる。
加速はもう、必要ない。
下りの傾斜に乗って、康平のスクーターがすべるように降りていく。
「あら、気がついたら、まわりは一面の白樺林です。
他の木々はみあたりませんねぇ。白樺だけが群生しています。
白樺は、高原の貴婦人と呼ばれています。
これだけ有ると気品が多すぎて、異様に見えてくるから不思議です」
「赤城で、白樺が群生しているのはこの一帯だけだ。
どこを見回しても白樺の木しか生えていないので、誰かが意図的に
整備したものだろう。
22キロの山道を、必死で登ってきたご褒美さ。
カルデラ湖の入り口で、白樺の群落が、出迎えをしてくれるんだ。
俺も、ここまで来るとほっとする・・・・」
「うん。実は、わたしもほっとしました。
これ以上、必死にあなたの背中へ、しばみつかなくても済むもんね。
でも、残念だなぁ。
あんたの背中って、けっこう居心地が良かったのに・・・」
「この先。カーブを2つ抜けると湖の周回道路と合流する。
大沼は、一周5キロあまりの火口湖だ。
1350mの高地だから、冬になると全面が結氷する。
氷の厚さは、20~30センチになる。
天然のスケートリンクとして、賑わったこともある。
春になると、レンゲツツジが咲きはじめる。
10数種類は有るという他のツツジたちも、一斉に咲きはじめる」
「あら、という事は今の時期は、お花は楽しめないか・・・・
ちょっぴり残念ですねぇ」
「そうでもない。がっかりするのはまだ早い。
大沼のとなりに、覚満淵(かくまんぶち)という湿原がある。
いまのなら高山植物や、ニッコウキスゲの黄色い花が見られるだろう。
貞園は、「尾瀬湿原」を知ってるかい?」
「夏が来れば思い出す・・・という歌いだしの尾瀬ことでしょう。
知っているわよ、名前くらいなら。
でも残念ながら、まだ現地に行ったことはありません」
「湖畔を一周してきた周遊道路は、ミニ尾瀬と呼ばれている湿原だ。
覚満淵には散策用の木道が整備されているから、そこへ行って一休みしょう」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 11話~15話 作家名:落合順平