嘘と演技
我々は学校の敷地内に入って行った。
私立さながらの数式に基づいて整理されたような煉瓦は校内の美的外観を確かに保っている様であった。
一等地に建てられた学校は校内の廊下も惜しむことなく、長く長く続き、その床は、まるでプロフェッショナルの手によって磨かれている様でもあった。
その長い廊下を歩いていき私達は校長室の前で止まり大きく深呼吸をした。
私が、
「行くか」
と、言うと霧島も、
「行きましょう」
と、言って私はドアをノックした。
厳かな雰囲気の校長室のドアをたたき、その音を響き渡らせる事は障子を破る勇気に近いものがあった。
「どうぞ」
校長と思われる声が中からした。
「失礼します」
我々は中へ入った。
「先ほどお電話した霧島です」
霧島がそう言うと、私は、
「弁護士の結城です」
「弁護士さん。これは、これは。わたくし校長の八木です。さっ。どうぞ。おかけになってください」
八木校長は椅子から立ち上がり、私がソファに座ったのを確認して、自分も座った。
「今日はまたどういったご用件で?」
「本条さくらさんの事についてです」
私が言った。
「そうでしょうね。勿論察しはついていました。まさかうちの学校から、あのような大きな事件を起こすものが現れるとは」
「事件の真相はまだこれからです。それとも八木校長は、彼女が犯人だという確信でもあるのですか?」
八木は冷静さを保つためか、一つ間をおいて、ゆっくり丁寧にこう言った。
「実は私も本条さんのお母様の通夜に行ったのです。先程から結城さんをどこかで見た覚えがあると思っていましたが…まあ私もここの学校の校長、当然事件の真相を知りたいと思いました。彼女の無実を信じたかった。それで厚かましいのを承知で刑事さんにいろいろ質問しました」
「それで彼女がやったと思わざるを得なかった?」
「真に残念です」