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嘘と演技

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私は彼女の後を片方は裸足で必死に追いかける。
「待て、由美、違うんだ」
 短パンは履いているものの上半身裸で外に出るわけにはいかないから、急いで裸にスーツのジャケットを羽織った。そのジャケットには弁護士バッチがついている。片方だけ黒い靴下、トランクスと区別のつかない短パン。裸がちらちら見えながら、弁護士バッチをつけたジャケットがゆらゆら揺れる。それだけ必死だったんだ。
「誤解だ。あの少女とホテルに行ったのは仕事の関係だ。待ってくれ。違うんだ。」
「ホテルに行った次の日に避妊について聞いてくるなんて信じられない。誰があなたのいう事を信じるのよ」
 純粋に人を助け、身を挺して、弁護士の本文を全うしようとし、現場の証拠を徹底検証し正義の為に立証しようとした私は今彼女を追いかけている。何故こんなことになったか、私が見た汗や涙はなんだったのか、正義の為に、世界のために働いた自分の置かれた立場が、喜劇なのか悲劇なのかすら分からなくなったかと思うと妙に虚しくなった。
 
そもそも悲劇や喜劇ってなんだろう?

悲劇の中の喜劇というものは子供に好まれ、一層面白いものかもしれない。

でも喜劇の中に悲劇があったとしたら…

皆が喜び満ち溢れ、高らかに笑っている時に、地べたを這いつくばって、砂を噛む思いで、幸福の王子の様に身を削り、苦しくても死ぬこともできず、逃げたくても八方ふさがりで、私はそんな一人の少女を助けたかった。

「待て、由美、はなっから違うんだ」
そう、そもそも最初から違っていた。推測はあくまでも推測で、事実がだんだん歪んでいった。

――パスカルの推測にも誤差が生じるように――


私達は全力を尽くしたが神には勝てなかった。しかしその間私の受け持った少女の魂から生まれた計算は、残酷にも一寸の狂いもなかったのだ。

作品名:嘘と演技 作家名:松橋健一