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蒼き旗に誓うは我が運命

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 イベリア領アデージョは、五年前にイベリア領となり、その以前はフェノール国の管轄にあった。イベリア王国に統合され、フェノール国はもう国として存在してはいなかったが、アデージョは、その間イベリアと隣国エトルリアで領有権を巡って揺れ、今度は海賊に狙われたりと混乱期を何度も経験した。
 「―――カインに、教えなくて良かったんでしょうか?」
 「パンピーア号か。俺たちが言わなくても、あいつは見る事になる。あの場で真っ青にさせる事はない」
 「後から散々文句を言われそうですね」
 小舟の上で、エルドアンはその姿を想像してクスクス笑う。本当なら小舟には、カインも乗るはずだった。父親の手がかりがあるかも知れないとなれば一緒に行くと言ったのだが、ジェフリーは止めた。
 アデージョは、エルドアンがいた頃とは違う。《闇商人》や、海賊もも闊歩する無法地帯と化していた。更に、イベリアで命を狙ってきた刺客が先回りしている可能性も低くはない。
 「―――幽霊か」
 「え…」
 「カインの父親アロー・ダルトンが言っていたそうだ。幽霊を見た―――と」
 「アデージョで、ですか?」
 「それはないな。交易商人のアロー・ダルトンなら、知っていた筈だ。アデージョがどんな場所か。お前が唯の交易商人なら、アデージョに来るか?」
 「絶対来ませんね。襲って下さいと言っているようなものです。彼は、誰の幽霊を見たんでしょう?」
 「恐らく、事の真相のそいつが鍵となりそうだな。この手の話にピッタリの奴が、今アデージョにいるのさ」
 ジェフリーはエルドアンと共に小舟で港に降り、ある男を探した。
 「―――相変わらず、賑やかだねぇ。サン・ディスカバリー号の周りは」
 その男は、ジェフリーを前に面白そうに口の端を緩めた。どうやら、サン・ディスカバリー号と海賊船が戦った事を島の何処からか見ていたに違いない。
 「人を探している。」
 「ソルヴェールが、人捜し?」
 「探しているのはアロー・ダルトン。交易商人だ。消えてもう二カ月になる。何せ、ウォルト・ベイリーの依頼でな」
 「あの商館主が、人一人消えただけでソルヴェールを動かすとなると―――、その依頼ただの人捜しじゃないね?キャプテン・ジェフリー」
 さすが《闇商人》と言われた男である。《情報屋》は、名前がちゃんとあるが皆《情報屋》と呼んでいる。政府から知らない裏の情報から、海賊船の針路、《闇商人》たちがいつ動くかまで彼の頭には詰まっている。
 それを売る相手を見極めて商売している。確かに、非合法ではない。
 「まさか、お前も関わっていないだろうな?」
 「冗談。情報を売る相手はあんたと、交易商だけさ。昔は海賊にも情報を売っていたけど、今じゃ大人しくしてるよ。まだ絞首台に上がりたくないんでね」
 さすがの《情報屋》も、アロー・ダルトンの事は知らないと言う。
 「そう言えば―――、あり得ない人物を見たよ。あんたなら会った事がある男だよ。あれは、貴族だね」
 確かにあり得ない。この島は、貴族と理解ると目の敵にする連中がいる。イベリア領となったが、直ぐに海賊に襲撃され海賊島となったアデージョである。
 「ある闇商人が言っていたんだけど、この七海には、黄金の道があるそうだよ」
 「ふん、どうりでこの数年で海賊が増えた訳だな」
 「となると、気にならならないかい?」
 まるで、ジェフリーがどんな顔をするのか理解っていたかのように《情報屋》は面白そうに嗤う。アロー・ダルトンを探す依頼の筈が、どんどん嫌な方へ向かって行く感は歪めない。
 ジェフリーたちがサン・ディスカバリー号に戻って来た時、カインは父親の手がかりが掴めなかったと聞かされて少し落ち込んだが、直ぐに明るさを取り戻し仕事に戻った。航海は、始まったばかりなのだ。
 甲板に出ると、辺りは霧が囲んでいる。さっきまでは、晴れていたのに、である。
 (―――船?)
 霧の中、ユラリと船影が見てた。サン・ディスカバリー号と同じガレオン式帆船である。そして、カインはその甲板に信じられないものを見るのだ。この霧で何故そんなものが見えてしまったのか。何度見てもそれは同じ。ボロボロの服を纏った骸骨と、再び視線が合う。
 マックスが云っていた言葉を思い出し、ゴクリと生唾を呑む。
 
 「…坊やが逃げ出すようなやつさ」

ゆっくり後退りしながら、カインは一気に駆けだした。
 その船は暫くそこにいた後、霧の中へ消え去った。赤い海賊旗を翻して。