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蒼き旗に誓うは我が運命

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 エルドアンが伯爵家を出て三年後、家を継いだジョアンは浪費の限りを尽くして家を傾けた。エルドアンが驚いたのはその後のジョアンが、何処にいたか。
 「―――何処だったんですか?」
 「イベリアにある、監獄ですよ」
 「エルドアン、お前の弟何をした?」
 「聞いた話に寄れば、いいお金儲けがあると聞いて乗ったようです。捕まってからは、必ず出してやるとまで言われたとか」
 だが、その約束は果たされる事はなく、伯爵家は断絶する。一体誰が、ジョアンに儲け話を囁いたのか。
 「お前の弟がどうしてイベリアにいたのか繋がるか理解らないが、その頃ある男が刺客に襲われている」
 「キャプテン?」
 「その頃、俺はまだ十六だったが」
 「まさか、その場にいたって言うんじゃないでしょうね?」
 「偶然通りかかったのさ。刺客の割には一人だけやたら剣がなってない奴がいたが、あれ―――、お前の弟か?」
 カインは、今すぐその場から消えたい心境だ。既にカインの歳には、ジェフリーは剣の達人となっていたのだから。しかも十六で、刺客相手に格闘までいていた。
 「まさか、キャプテンがジョアンに会っていたとは驚きです」
 「でも、一体誰をその刺客は狙ったんです?」
 「さぁな。その頃の俺は公爵ではなく、ソルヴェールだったからな」
 エルドアンが話さなければ、忘れていた事件である。
 その後、エルドアンは昔屋敷に出入りしてした交易商人に誘われ、アデージョに居を移す。時にエルドアン、二十歳。
 「―――エルドアンじゃないか」
 「いい茶葉が手に入ったとか、船長」
 新しい茶葉が港に着くと聞いては港に顔を出していたエルドアンは、馴染みの商船に歩み寄った。
 「お前さんの欲しがっていた、茶葉さ。手に入れるの大変だったんだぜ?最近じゃ、イベリア産も貴重だ」
 「混ぜ物が出回っていると聞きましたよ。よく、純正品が手に入りましたね」
 「助けてくれた人間がいたのさ」
 指を指す方向に、エルドアンと歳がそう違わぬ青年がいた。どう見ても、商人ではない。視線が合い、エルドアンはその場から動けなかった。
 
 「何故か、彼だ―――と思ったんですよねぇ」
 それまで他に無関心だったエルドアンは、何度も彼に逢いに行った。端正な顔に迷惑そうに皺を刻むのは、その頃から変わっていない。
 「妙な奴が来たと思ったよ。しまいには、ついていくとまで言い出した」
 「でも貴方は、乗せてくれたではありませんか。サン・ディスカバリー号に」
 「うちは夢のない奴は乗せない―――と言うのが、親父からの条件だからな」
 海のおいて、自分の世界など何と小さかったのか。広い世界を見ようともせず、それで満足していた自分は何だったのか。エルドアンは、自分の勘は正しかったと思う。
 ジェフリーと、初めて会った時の直感。ジェフリー曰く鉄仮面の取れたエルドアンは、変わった。冗談も言い、明るく笑い、それでいて冷静沈着。二人が揃えば、サン・ディスカバリー号は無敵だった。性格は対照的にある二人だが、バランスが崩れた事はない。
 「お茶が冷めてしまいましたね」
 エルドアンが立ち上がり、カインが残りを片付けようとカップを口に運んだとき、船体が大きく揺れた。
 「うわぁ…っ、と!」
 思わず落としそうになったカップを必死に受け止め、カインは冷や汗ダラダラである。
 「どうしたんでしょう?」
 「あり得るのは、海賊船だな。昔と違って、アデージョは海賊船もやって来る自由港らしい。カイン、覚悟しておけよ。海賊船だったら、上は忙しくなる」
 つまり、自分の身は自分で守れと言うのだ。
 救いの目を、エルドアンに向けたが彼はにっこりと笑って言った。
 「健闘を祈ります」

 ディスカバリー号の周辺は、ジェフリーの予想通り海賊船に囲まれていた。
 「久々に、俺の出番だぜ」
 こう言う場合、生き生きするのがマックスである。
 「ジャン、レッド、外すんじゃねぇぞ!」
 「砲術長こそ、酒の飲み過ぎで外すなよ」
 「ふん、俺がそんなヘマした事があったかよ!おい、坊や」
 「カイン、です!」
 「どっちでもいい!船室へ戻ってろ」
 「…戻りません」
 「どうなっても知らねぇぞ!」
 再び揺れた船体に、カインは踏みとどまった。
 「ゼロ・ワン!主力船を探せ!必ず親玉がいる」
 すかさず、ジェフリーが見張り台に指示を下す。
 「親玉?」
 「つまり、彼らを束ねている船ですよ。指揮系統を叩けば、彼らは去るしかない」
 「いたぜ、キャプテン!右30度に、一回りデカイ船が!」
 「マックス、聞いたな?」
 「了解。前砲塔、右30度の船!雑魚は残りで引きつけろ!」
 サン・ディスカバリー号の砲弾が放物線を描き、炸裂した。爆音と共に主力船らしき船が黒煙を上げ、仲間の船は案の定パニックになった。距離からしてとても届く筈がないと思っていたのだ。だが、サン・ディスカバリー号砲術長マックスは、狙った的は百発百中射抜く自身と腕があった。
 「凄い…」
 「これが、七海の覇王と言われたソルヴェールです。カイン」
 世界に七つある云う海、七海。海賊も怖れる最強の彼らを、七海の覇王と呼ぶ。カインは嘗て父から、そう聞かされたのを思いだした。。


 アデージョから離れる事、数十海里。七海第二の海エルドラにいた船の中、男は目を細めた。
 「ディンゴが、やられた…?」
 「突然、ソルヴェールが現れたらしいぜ。お宝を掘り出す所だったのによ」
 サン・ディスカバリー号に打撃を与えられた海賊船は、男の配下の船だった。
 「ふん、懐かしい名だな。確か、ソルヴェール惣領だったあの若造、陸で貴族になったんじゃなかったか?」
 男がまだ《血塗れ赤髭》と怖れられていた頃、一度だけ彼の船は対峙した事がある。
 数十隻あった配下の船はあっという間に戦闘不能、これから何隻失ったか。
 だが男は敵であるソルヴェールを賞賛した。仲間にならないかと誘った事がある。
 ―――俺たちは海を純粋に愛し、自由に駆けていたい。
 そう言った、まだ少年だったソルヴェールの惣領。
 「《赤髭》のお頭…」
 「落ち着け。俺たちにはなぁ、強い味方がいる。資金をたっぷり用意してくれる味方がな」
 豪快に笑う、《赤髭》であった。
 死んだと言われている《血塗れ赤髭》、海に於いて最大の敵の復活を、ジェフリーはまだ知らない。

 サン・ディスカバリー号は、本来の目的を果たす為、アデージョに寄る事にした。カインの父親アローの情報を得る為である。
 「だがなぁ、あそこ出るんだろ?」
 「何がでるんです?マックス砲術長」
 マックスの前にコーヒーカップを置いたカインが首を傾げた。悪戯好きでもあるマックスに聞いたのが悪かった。
 「…坊やが逃げ出すようなやつさ」
 いつもなら宥めに入るエルドアンも、更にジェフリーでさえそれに否定はしなかったから、カインの笑顔は引き攣った。
 「知らぬが仏ってやつだな。出てこないのを、祈るしかねぇ」
 マックスが何を言いたかったのか、カインが知るのは暫く後の事である。