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掌編とけいそう

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馴れ合った言葉で接してきた夕紀が、ばかに丁寧な言葉で話すものだから新鮮に思えてオレは新しい恋心のような欲情めいたものを感じてしまった。抱き寄せようとするオレの手を避けながら夕紀は裁判官のようにオレの不実を並べている。何をしようとしているんだオレは、今まさに別れの宣告を受けたばかりだというのに。少しは言い訳をする材料はあったものの、一応男なのだから女々しいことはしたく無い。

思えば度々けんかはしてきたが、お互い相手への甘えが強くて、それが叶えられなかった愚痴のようなものだった。ひとしきり吐き出してしまって、時間が経てばまた仲の良い夫婦に戻っていた。一番印象的な出来事は、もうけんかの理由も覚えていないのだが、もう吐き出す言葉も尽くした夕紀が、おさまりきれずに自分の頭を壁に打ちつけた時だった。オレは一瞬意味もわからずポカンとしてしまったが、すぐに夕紀の頭を胸に抱えて抱きしめた。強ばっている夕紀の体が少しずつ柔らかくなってくるのが分かった。体をゆっくりと離しておでこを見た。少し赤くなっているだけで何ともないようだった。それを確認してまた抱きしめた。

オレはあの時に何かを反省して夕紀を大切にしようと思った筈なのに、今、夕紀は野良猫のように距離をとって対峙している。夕紀の頑固さは知っている。ここは別れるしかない。でも、でもとオレの踏ん切りがついていない。あの時のように抱きしめることも出来ず、両手が宙に浮いている感じだ。

  唐突に訪れた別れの時
  喧嘩していた頃がなつかしい
  いいんだこれで
  そう思い込もうとしても
  嘘だとどこかで思っている

もとはと言えばオレが短気を起こして永年勤めた会社を辞めてしまったことが大きい。もう昔とは違っている。職人だったオレはその技術で勤め先を探すのは簡単だった筈が、急速な技術発展のお陰で、職人の技術が素人でも簡単に確実に出来るようになったので、身についている技術も役に立たない。収入が少なくなったのに、それまでと同じ生活を続けて夕紀に迷惑をかけていたのは確かだ。

無からやり直そう。トランプゲームの手札全取っ替えだ。状況は本当に笑うしかないほど無に近かった。遠く離れた場所へ行ってみよう。幸い二人で買った家を夕紀に譲るかわりに、夕紀が少しまとまったお金をくれた。子どもいないし、慰謝料を払うこともない。まだ人生の折り返し地点を折り返してちょっと過ぎただけだ。

  とりあえずこの町を出よう
  係累を断って新しく出直そう
  いつかきっと笑って話せる
  そうさ残りの人生で今一番若い
  浮かれず恐れず諦めず

作品名:掌編とけいそう 作家名:伊達梁川