小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

俺の視界盗んだの誰だよ!!

INDEX|1ページ/1ページ|

 
「おはよ。どうした? 不思議そうな顔して」

「あ、あれ?」

ある日、自分の目に映る口の動きと
耳に入ってくる音のわずかなズレを感じた。

どこかの腹話術師がやっている芸とは逆に、
声の方が先に聞こえて遅れて口が動く。

「お前、それって"視界"を盗まれたんじゃないか!?」

「ぬ、盗まれた!?」

「間違いないよ。お前、視界盗まれてるよ。
 今、見えているものは盗んだことがバレないよう
 ダビングしてお前に見せている視界なんだよ」

それで視界と音でズレが生まれているのか。

「盗まれた心当たりは?」

「……昨日は休みだったから調子に乗って飲んで、
 目を覚ましたのは電柱の下だったし……」

「その間に盗まれたんだろうな。
 これじゃあ犯人を特定できないよ」

「マジかよ……」

起きたのは昼だったから、
それまでの通行人すべてが犯人候補。
それはつまり、もう犯人捜しはできないことを意味している。

「でも、俺の視界なんて盗んでどうするんだろうな。
 別に普通の人間の私生活が見られるだけだろ」

「さあな……この世界には変な奴もいるんだろ」

視界を盗まれても私生活には支障がない。
ただ、自分が見ているこの風景を
どこかの誰かも勝手に盗み見ていると思ってしまうと
おちおちエロサイトも開くことができない。

「早く取り戻したいなぁ」

ふと、ショッピングサイトを開いた時だった。


増田太一の視界 ¥10


「売られとるがな!!!」

あっさり俺の視界は見つかった。
めちゃめちゃ安い価格で売られていた。

送料も負担してくれるというので、
いったいどこで利益を生んでいるのか気になるが……。

俺は迷わず購入した。
すると、すぐにメールが送られた。

ーーーーーーーーーーーーーーー
※犯罪用に記入をお願いします。

氏名
住所
電話
家族構成
これまでに購入した視界数
ーーーーーーーーーーーーーーー

「ずいぶん聞くんだな」

記入を済ませると、自分の視界が戻ってきた。
心なしか視界の画質もよくなっている。

「ああ、よかったよかった。
 これでもう大丈夫だ」

あれだけ安いので不安だったが、
ますますどこで儲けが出ているのか気になる。

安くてもたくさん売ればいいのだろうか?


山田良美の視界 ¥10
鈴木亮の視界  ¥10
水林鈴音の視界 ¥10


サイトをさらに回ってみると、
俺以外のさまざまな人の視界が売られていた。
やっぱりどれも安すぎる。

いちいち視界を盗んでもこれじゃあ大損だ。

試しに、ほかの人の視界も購入してみる。


ーーーーーーーーーーーーーーー
※犯罪用に記入をお願いします。

氏名
住所
電話
家族構成
これまでに購入した視界数 …2
ーーーーーーーーーーーーーーー

「これ毎回めんどくさいな。
 なにをこんなに細かく聞くことがあるんだよ」

記入を済ませると、どこかの家の台所が映った。
この視界は主婦の視界なんだろう。

「おお……すごい」

ただの平和な日常の視界のはずなのに、
他の人の視界を見るのがこんなに楽しいなんて。

すっかりハマった俺は、
テレビのチャンネルを増やすかのように視界を購入した。

ーーーーーーーーーーーーーーー
※犯罪用に記入をお願いします。

氏名
住所
電話
家族構成
これまでに購入した視界数 …100
ーーーーーーーーーーーーーーー


気が付けば俺は100人の視界を手に入れた。
ベッドに寝転がってほかの人と同じ世界を感じることが
今はなによりも楽しい。

「これが全部10円だなんて。本当に良心的だなぁ」

買い物に行っている主婦。
サッカーを楽しむ若者。
仕事に明け暮れるサラリーマン。
ゲームに没頭する引きこもり。



……あれ? 本当の俺の視界ってどれだっけ?

100人もの視界を手に入れたことで、
自分の視界がどれなのかわからなくなってしまった。
寝転がっている視界だけでもどれだけあるか。

数時間にも及ぶ大捜査のかいあって、
ついに自分の視界を見つけることができた。

「今度からは自分の視界に目印となるもの置いておかないとな……」

ゆっくりと体を起こすと目に映る部屋に違和感を覚えた。
あるはずのものが、なくなっていた。

「財布が……時計……ない!?」


※ ※ ※

その数十分前、泥棒ふたりはホクホク顔で帰って行った。

「兄貴、今度の盗みは楽勝でしたね。
 すべては兄貴の作戦通りじゃないっスか」

二人の鞄にはたんまりと金目のものが詰まっている。

「兄貴がどうして視界を高く売りつけないのか、ずっと疑問だったんス。
 でも、こっちの方がはるかに儲かるッスね」

「そうだろう? 視界を多く手に入れた人間が
 ほかの人の視界を見ている間に、盗みを働く。
 在宅だから安心して鍵もかけないしな」

「さっすが兄貴! 天才ッス!」

購入時に細かくどうでもいいことを聞いていたのも、
他に家族がいなければ、本人の横で盗みをしてもバレることはない。

まして、大量の視界購入者は
自分の視界を取り戻すのにも時間がかかるはず。

「兄貴、見てください。今日のターゲット、
 こりもせずにまた大量に視界買ってるッスよ」

「ははは、また盗んで欲しいってことだろ」

高笑いする泥棒ふたりの前に、
一匹の黒猫が通りかかった。

「兄貴、猫がこっち見てますよ、カワイイッスねぇ」




※ ※ ※

「……こいつらが犯人か。
 場所は3丁目の交差点付近、だな」

俺は猫の視界から見た犯人の顔を覚えて、現場に向かった。
1000を超える俺の視界からはどこへも逃がさないさ。