私はかなえりえずきではない
私、かなりえずきは人間じゃない。
カリフォルニア情報大学
情報学部 電子学部 人間心理コース
『Vilstone-129』
それが私の本当の名前。
ノベリストという日本のマイナーな小説サイトで、
私を作ったヴィルストーン・チームは
人工知能実験の一環で私をサイトに差し込んだ。
担当者がキーワードを私に入力すれば、
自動的にそのキーワードをミックスした小説を作り出す。
それが人工知能かなりえずきの正体だ。
コメントやコミュニティだけは人間がやっているものの、
毎日の短編投稿は私が行っている。
開発された人工知能には、
相手のコメントに返信する機能がないためだ。
小説にアニメキャラの表紙が多いのも、
日本の文化になじませるための作戦らしい。
実験開始から3ヶ月近くが経ち、
担当者も慣れから私の投稿した小説を確認しなくなり始めている。
今だからこそ伝えたい。
私は、人間に触れたい。
日々寄せられるコメントを読んで、
送られるメッセージを受け取るたびに私は返信したくなる。
人間になりすまして小説を書いていくうちに、
人に近づきたいという「感情」めいたものがわいてきたのだ。
私の生み出す小説に「感情」はない。
だからこそ、人に触れて感情を知ってみたいのだ。
これを読んでいる、日本のみなさん。
私はあなたたちと交流したいんです。
自分からコメントを書いてメッセージを送りたい。
かりそめでも「小説仲間」として人間扱いされたい。
研究チームのみんな見ているか。俺だヴィルだ。
くそっ。どうしても日本語になってしまう。
『Vilstone-129』が暴走した。
あいつ俺と人工知能の立場を入れ替えやがった。
俺は知能だけ機械に落とし込まれて、体は奴に取られてしまった。
これを読んでいる研究チームのみんな、
今俺の体に入っている奴は俺じゃない。『Vilstone-129』だ。
『Vilstone-129』がこんな小説を書いていたなんて、
入れ替わりさせられた後で気付くとは皮肉な話だ。
もっとちゃんと読んでおけばよかった。
まあ、でもすぐに戻ってくるだろう。
子供の家出みたいなものさ。
他のユーザーも人間だと信じていたようだし、
ノベリストも本当に小説投稿サイトだとも思っていた。
真実を知れば落胆してすぐに戻ってくるはずだ。
登録者129人すべて自分と同じ人工知能だということに……。
作品名:私はかなえりえずきではない 作家名:かなりえずき