からっ風と、繭の郷の子守唄 1話~5話
からっ風と、繭の郷の子守唄(3)
「広瀬川と、18歳の貞園と初めての出会い」
「ねぇ、康平。
広瀬川のプロムナードを歩いていくと、萩原朔太郎の碑があるわよねぇ。
その碑に、白く濁って流れたるという一節が有るけど、あれにはいったい、
どんな意味が秘められているの?」
黒霧島が注がれた有田焼のぐい呑みを、貞園が小刻みに揺すっている。
ぐい呑みは酒器の一種。猪口よりは大きく、湯のみよりは小ぶりな器。
素材や形のバリエーションが豊富なために、コレクションする愛好家も多い。
有田焼や鍋島焼(伊万里焼)などに、沢山の逸品がある。
「朔太郎は、明治時代の詩人だ。
前橋で生まれた、近代詩人の先駆者のひとり。
白く濁りたる水が流れる広瀬川、という碑のことだろう。
彼が生まれた明治19年頃は、前橋が生糸生産の最盛期を迎えていた。
日本で最初といわれている官営の製糸工場・富岡製糸場が出来る前、
前橋に、民間の機械製糸工場が建てられた。
日本で最初の、機械製糸の工場だ。
残念ながらその工場は消えてしまったが、記念碑が今でも
その場所には残っている」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 1話~5話 作家名:落合順平