ヴァリング軍第11小隊の軌跡(仮)
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ウール一人でやっている時はナポリタンとカルボナーラとボロネーゼしか出していなかったが、味見係のルナを拾ってからは出来る料理の種類が格段に増えた。ルナも味見だけではあまりにも暇だからウールに包丁の使い方とトマトソースの作り方を教えてもらった。今ではルナ一人で出来るようになり、給料も6ユーロから9ユーロに上がった。
「いいのです?」とルナ。
「それだけの事はしてもらってる」
ルナはパァッと明るくなり給料を握りしめるとウールに一言。
「ありがとう」
と言い自分の部屋に戻った。
ある日、ウールとルナはチェントロへ行った。
食べ歩きとチェントロにあるぺスケリアという名の魚市場へ仕入れの為だった。
チェントロは流石にヴァーザに比べるととんでもなく広大でゴンドラの数も凄まじかった。いつも週1で来ているのに一ヶ所にしかいないのでそこまでとは思わなかったのだ。
ナスとマグロのコロッケ…2個
パニーニ…2個
トラメッツィーノ…2個
半熟じゃがバター…2個
マルガリータ…1個
を食べ朝からずっと食べ歩いていた為、足がちょっと疲れたので町のベンチに二人で座った。
「ふぅ、疲れました…こんなに歩いたの初めてです…」
「はは、でも楽しかったろ?」
「はいです。それに美味しいものを沢山食べました」
「ヴァーザじゃ食べれないものばかりだからな」
「ですね。…あの、ウール」
「ん?」
「ウールに夢はありますか!?」
「…夢…どうだろう……まだ具体的には決まってないけど、でもいつかヴァリング中を回ってみたいとは思ってる。ルナはあるか?夢」
「今出来ました。ボクはそんなウールに付いていきます!そして一緒に回ります、世界を…!!」
ウールは一瞬目を見開いて黙った。
そして思った。
…ああ、ルナは俺よりもずっと大きな夢を持っているんだな。
「叶うといいな…その夢」
「一緒に叶えるんです!」
「…はは、そうだな…」
そして夜はウールが予約していたレストランへ行き、食べた。
いつもは食べれない魚のコース料理だった。
美味しすぎたのか残さず綺麗に食した。その後、二人はヴァーザに帰った。
それから1年半が経ち突然別れがやってきた。
ウールが倒れたのだ。
ウールは自分の死を悟り、ルナに自身が今まで溜めていた貯金を渡した。それから数日後、ウールは亡くなった。
とても重い心臓の病気だったらしい。
…何も気付けなかった…
あんなにいつも一緒に居たのに「悔しい……」とルナは歯を噛みしめ涙を流した。ルナは一日中泣くと泣き疲れたのか妙にスッキリしたので家を掃除した。
ウールの部屋を掃除していると机の引き出しから封筒が出てきた。宛先はルナ宛だった。ルナは封筒を開け、手紙を読んだ。
○
ルナへ
これをルナが読んでいるって事は俺はもうこの世にはいないんだろうな。
ルナにはもっといろいろ教えたい事があったんだが力足らずで悪い…。
俺はこんな味覚が致命的な駄目な料理人でルナが来るまで3種類
のスパゲッティしか作れないレパートリーが少なくあまり料理を
教える事が出来なくてごめんな。
ルナの味覚は確かだから、これからの職には困らないだろう。
でも、9歳の少年が一人で生きていくには大変だろうから俺の貯
金を残しておくからこれを使うといい。
夢の為に貯めていたものだが、俺にはもう使い道がないから。
だからルナの夢の為に使ってくれるなら俺はそれで幸いだ。
ルナ、俺の前に現れてくれて、ありがとう。
きっと凄い料理人になれるさ。
じゃあな……
ウール
作品名:ヴァリング軍第11小隊の軌跡(仮) 作家名:鳶織市