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匂菫遭逢

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 それはともかく、とアピールを続けるアレスだ。身寄りもない見知らぬ街で一人で仕事を探すのは大変だろう、ここで会ったのも縁であるし話に乗ってみないか。言い含めるように訴えるアレスの必死さに何を感じたのだろうか。ヘカーテは僅かの間の後にこれを了承した。
「わかりました。よろしくお願いします」
「何なら俺に依頼してくれても」
「それは結構です。あなたはまだ経験が浅そうだし」
 確かに経験豊かとは言い難くまだ生業として間もないのは事実だが、言い方というのはあるかと思う。何とも言えない面持ちでアレスは席を立った。
「まあ…そう決まったんなら、出ようか」
「そうですね。では行きましょうかガロア」
 …ガロア?
 そう疑問に抱くと同時に背後でゆらりと気配が動いた。恐る恐る振り向き見上げた先には、いつからそこにいたのだろうか巨大な男が立っていた。アレスは自身の赤髪が逆立つ感覚を覚える。
 アレスも人並み以上の背丈をもつのだが、土気色の肌を持つ男は更にふた回り程大きいように見えた。その高さから見下ろされ、黒衣とも相まって凄まじい威圧を感じる。いや、見下ろすというのは語弊があった。ガロアというのだろう彼は装飾の施された布で両眼を覆っており、実際にアレスが見えているとは考えにくい。しかし表情は動かず目隠しまでされているにも関わらず、威圧と敵意がガロアの全身から溢れ出ているのがわかった。先程の鋭い空気も彼だったのだろうか。
「アレスさんでしたっけ?こちらはガロア、いつも何かと助けてくれる友人です」
 ローブをひらめかせ椅子を降りるその影はやけに細身で。釘付けになる視界の中で、ふわりと微笑み、ヘカーテは口を開いた。
「私、両腕がないんですよ」
作品名:匂菫遭逢 作家名:いわしろ