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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「もう一つの戦争」 敗北と幸一の運命 2.

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艦の傾斜がいよいよ激しくなるや御真影を甲板下部の安置室より艦に横づけとなった駆逐艦に恭しく遷し参らせたのち、全員を飛行甲板に集めて最後の訓示を行い、君が代吹奏裡に軍艦旗を下ろし、「全員退去」の号令で搭乗員を駆逐艦に移乗せしめ、山口・加来両提督は部下の涙の嘆願を払いのけて艦を去らず炎の艦橋に静かに登って行った。

仰ぎ見る全部下の嗚咽の中に「司令官、何かお形見を下さい」との先任参謀の声に、山口提督は微笑してかぶっている戦闘帽を軽く投げ与えた。そして両提督は艦と運命を共にした。

もう嗚咽を堪えられなく反響する風呂場は幸一のしゃくりあげるしぐさと共に五十六の涙をも誘っていた。
突然直立した幸一は、「天皇陛下、万歳!」と声を発した。
五十六の目に映った幸一の姿がこの国の若者すべてがそうであるように強い愛国心で支えられていることを痛感した。

だから、決して負けてはいけないと強く感じるのだ。勝てる決戦を負けにした軍令部の責任は重い。自分は立場上そのトップの責任者であるから、こうして生きながらえていてはならないのだとも五十六は同時に感じていた。