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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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日常整理券ナンバー1

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ものすごい行列ができていた。
いったい列の先頭がどこに行きついているのかわからない。

「あの、この行列はなんですか?」

「日常整理券だよ。君は知らないのか?
 整理券の数字に応じた生活が保障されるんだ」

「えっと……?」

「ま、僕の後ろに並びなよ。
 友達だってことにしといてやるから」

男の厚意に甘えて俺も列に加わることに。
長い行列だったがするすると先に進んであっという間にたどり着いた。

列の行きついた先は、まるで握手会のようなブース。
何人もの覆面した人間が、並んできた人に整理券を配っている。

「それじゃあ、僕ももらってくるね」

前に並んでいた男は整理券を受け取る。

「……120か、まあしょうがないか」

男はそのままどこかへ消えてしまい、
俺も慌てて覆面男の前にやってくる。


「整゛理゛券゛を゛どう゛ぞ……」


わざとらしく変な声を出して覆面は整理券を渡す。
受け取った券には「34」と書かれていた。

「あの、さっきの人が120でどうして俺が34なんです?
 普通に考えたら121になるはずですよね?」

「不゛満゛でずが……?」

「あっ、そのっ、いえ、なんでもないです」

ここで下手なことを言ってしまえば、
さらに番号が下がってしまうかもしれない。
そのまま整理券をもって列から去っていった。


変化はすぐに訪れた。

「お客さん! 日常整理券40番以内だね!
 特別に今日はかつ丼定食半額だっ!」

「どうぞ座ってください。
 日常整理券86の私より、あなたが座るべきです」

定食屋では半額にされるし、電車では席を譲られる。
日常整理券があるおかげで生活がすごく充実した。

「もし日常整理券1を手に入れられたら……」

いったいどうなるんだ。
どんな幸せが待っているというんだ。


翌日、早起きしてまた同じ場所に向かうと
すでに列ができていることに驚いた。
まだ午前3時なのに。

「整゛理゛券゛を゛どう゛ぞ……」

整理券には「10」だった。
俺と同じように考える人間はいくらでもいるというわけか。

だったら……。


「あ? 列に並ぶ人間を散らしてほしい?
 いいぜ、整理券10のあんたの頼みを断る義理はねぇからな」

「わかりました。では、翌日の道路を封鎖いたします。
 もちろん。整理券10の指示ですから」

やくざと警察の力を借りることに。
これなら絶対に負けない。

翌日は予約していた高速タクシーで一気に会場へ。

「整゛理゛券゛を゛どう゛ぞ……」



 1。



「やったぁぁぁ! やった! ついに来たぞ!!」

ついに、ついに念願の日常整理券1を手に入れた。
街に出るとそれを持っているだけで、周りの待遇が劇的に違う。

「めっそうもございません!
 整理券1のあなた様からお題などと!」

「きゃーー! 整理券1よ! ステキッ!」

「では、今国会の最終結論は整理券1の彼にゆだねることとしましょう」

まさに最高の生活。
こんな日々が一生続けばいいのにと思うが、
日常整理券の期限は1日ぽっきり。明日にはまた元の暮らしだ。

そんなの嫌だ。

翌日も同じ手を使って整理券1を手に入れた。
その次も整理券1を手に入れた。
対策している奴をつぶして、また整理券1を手に入れた。


なんども、なんども、なんども。


列に並ぶほかのライバルとの競争に俺は勝ち続けた。

ほかの奴らがどんなに不幸になってもかまわない。
この日常を絶対に手放すものか。


1年間、日常整理券1を手に入れ続けると
ある日整理券会場にはいつもいた覆面がいなかった。

これでは日常整理券がもらえない。

おろおろしていると、奥から男がひとりやってきた。

「整理券をお配りします。どうぞ」

男が出した整理券には「0」と書かれていた。
1より上があったなんて思いもしなかった。

「0……?」

「ええ、あなたの1年間の努力、拝見させてもらいました。
 あなたは他のどの人よりも努力家だとわかりました。
 ですから、あなたは本物以上に本物ということでこれを」

男は説明しながら、覆面を渡した。
いつも整理券を配っていた人が着けているあの覆面。

男に促されるまま覆面をして席に着くと、
もうすでに整理券を待つ人間が並んでいた。

「……あっ」

気付いてしまった。
列の中に俺とまったく同じ顔の人間が何人もいることに。
でも、彼らは列の後ろをけして振り返らないから気付かない。

列はどんどん進んでみるみる距離が近くなっていく。

「日常整理券は、オリジナル以上に
 優秀なドッペルゲンガーを査定するためのものなんですよ。
 本物超えができたゲンガーは本物と入れ替わるんです」

男はにこりと笑って、整理券の束を机に置いていった。
ついに、俺の前に俺が並んだ。

自分が偽物だと知ってもなお、俺はこの生活を手放したくない。
ウソでも本物の立場であり続けたい。

俺は心から並ぶコイツが
連続で「1」を取らないように祈って手を出した。
ドッペルゲンガーだと気付かれないよう声を変えて。



「整゛理゛券゛を゛どう゛ぞ……」