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ゼロ´

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内在



ひとつひとつ、はげしい輪廻のあとに、夜は摘み取られてゆく。現世の庭にしどけなく積み重ねられた夜の鏡像は、大地の核に至るまで、ことごとく破壊されている。光は輝くことをやめた。色彩はひろがることをやめた。庭は、くさぐさの人の手から抜き取られた円弧によりかたどられている。

砂と交わした約束が、正しからんことを。約束はいつでも植物の波でできていて、植物は破壊された細管によって優婉に積み立てられている。細管と交わした約束は、月の水脈を伝って精確にとがりはじめる。砂は塩湖に撒かねばならない。細管はそろえて癒着させねばならない。いつしか水面に焼きついて生体を写し取るために。

鉱石の住む街がある。すべての窓は塵のためにあり、すべての部屋は海のためにある。建物は寒々とした記憶に従いみずからを組み立て、みずからを傷つける。鉱石たちは街路沿いに並び、うしなわれた手の密度を考えている。生れ落ちた日の空の残滓を暗転させている。そして、人々の影に踏まれる前にみずからを破壊する。

――闇に刺さった指から血液が生まれ、人によって隔てられたもうひとつの闇へと血の条をめぐらせてゆく。条の尖端からは水銀の葉叢が茂り、葉叢を取り囲むように葉緑体の丸天井がかさかさと闇をはじいている。
――夕日が大量の油を空に流しはじめると、その淵からは夥しい数の羽虫の鎖が涌いてくる。鎖の中空部には受精音が閉じ込められていて、それは人の頭上にて一斉に裂開しては、空に向かって煮えたぎる液体生物を噴き上げる。

産毛を生やした時間の子供たちが、現世の庭で互いに破壊しあう。内臓をかきまぜあう、すると柱としての犯罪が一斉に林立する。眼球をつぶしあう、すると半球としての結婚が放射状に散らばる。子供たちの死体の上には夜が積み重ねられ、時間の陣痛は際限もなく照り輝く。

破壊された塩湖は稠密に雲を集める。湖底にそよぐ水たちは水圧によってたえず砕かれている。岩肌は水たちにまさぐられ、霊的な化粧は剥がされては棘矢となる。水中に突然現れる螺旋階段、それは約束のかけらだ。約束は塩湖のあらゆる火種をつらぬいていて、それゆえ破壊されている。一滴の生体は、いまや塩湖の無量の死と同義だ。

時間は世界を含み、世界は鉱石を含み、鉱石は時間を含んでいる。林の形をした虚無が官能的に破壊されると、新しく自生した街は小さな快楽の核にまぶされてゆく。鉱石という虚無の心臓、という雷の意味。次はどんな空が襲ってくるのかと、建物は意識をよじらせる。破壊された空の破壊、という新しい痛覚に、いくつもの部屋を与える。

作品名:ゼロ´ 作家名:Beamte