完璧なる1万人の泥棒たち
刑期を全うしたわけではなく、
凄腕すぎて刑務所のものを好きなだけ盗むもんだから手に負えなくなったのだ。
「ん~~やっぱりシャバの空気はいいねぇ。
なんていうか腕がなるぜ」
肩慣らしにどこかに空き巣にでも入ろうかと思ったとき、
一人の男がレパンを引き留めた。
「君がかの有名な泥棒のレパンだな」
「ああ、そうとも」
「君のような職人にはぜひ我々のグループに入ってほしい」
「グループ?」
「1万人の泥棒チームだよ」
男の言葉にレパンは興味がわいて話を聞くことにした。
「君が刑務所にいる間の期間で世界は大きく変わった。
泥棒の被害件数は0.000001%にまで激変したしね」
「なんだって!? 空き巣大国と呼ばれたこの国が!?」
「それだけにセキュリティも厳しくなったということさ」
「そうは見えなかったけど……」
レパンの目には町がそこまで監視社会になったようには見えなかった。
「というわけで、我々泥棒チームはリスクを最小限に抑えて
かつ、確実に泥棒する方法を思いついたんだ」
「それが1万人の泥棒チーム?」
「まずは体験してみるのが早い」
レパンは男から紙を渡された。
そこには場所と時間、そして取るべき行動が記されていた。
"3丁目の交差点。空のカバンを置く"
「なんだこれ、まるで泥棒とは関係ないじゃないか」
遠くない場所だったのでレパンはさっさと仕事を済ませ、
また男のもとに戻ってきた。
「置いてきたぞ。いったいあれが何だっていうんだ」
「1万人で1件の泥棒をするから一人一人の負担は少ないんだ。
さっきのカバンも泥棒に必要なものなのさ」
レパンはなるほどと納得した。
一人では技術と経験が求められる泥棒も、
1万人で作業を分担すれば一人一人の行為は足がつかないほど小さなものにできる。
「もちろん、分け前は減りますが
それでもノーリスクで毎日泥棒できるんだからいいものでしょう?」
「確かにそうだな! ようし頑張るぞっ!」
レパンは一人で盗みに入ることを辞めて、
1万人の泥棒グループに協力することを誓った。
・この家のドアを開けておく
・タイヤの空気を抜く
・ブレーカーを落としておく
あれからレパンはいたずらにも近い行為を繰り返した。
直接盗みに入るのではなく、盗みに入る誰かのサポートを。
けれど、かつて大泥棒としてもてはやされたレパンにとって
安全ではあるけれど刺激が物足りなく感じた。
「なあ、俺も盗みに入りたいんだが」
「1万人もいますからね。
実際の主犯になる可能性も限られてるんですよ」
「それじゃあもうこのグループ止めようかな」
レパンが言い出したところで、男の顔が一気にか終わる。
「辞めるのはかんたんですよ。
ただし、グループの存在を知られないために
9999人があなたを消しに来ます」
「ひっ」
1万人による完全犯罪を体験しているレパンにとって、
その気になれば人ひとり証拠なく消すこともできるだろう。
「……わかった、もうやめるなんて言わないよ」
「ご理解いただけて幸いです」
話している最中に新しい連絡が届いた。
・1丁目の家に入って、宝石を盗んできてください
「うおおおおおお!! 来た! 主犯係が来た!!」
レパンは嬉しくなって指定された家にまで向かう。
ドアはすでに開錠され、家主は誰かが引きつけて不在。
もう盗みに入るおぜん立ては済まされている。
なんの障害もなく宝石を手に入れることができた。
安心して泥棒できることがこんなにも楽しいなんて。
・
・
・
あれからもう数年がたって、
泥棒の被害件数はついに0%に到達した。
レパンはさらにリスクを分散するために勧誘を続けていた。
「……ということで、俺たち2万人の泥棒グループに入らないか?」
「でも……僕みたいな凡人には無理です」
「大丈夫だよ。2万人もいるから、仕事は誰にでもできることなんだ。
それに泥棒被害件数はもう0%になっている。
もはや個人で泥棒できる世界じゃないんだよ」
「わかりました……」
新しくまた一人、ゴェモンが入った。
するとすぐにゴェモンのもとに仕事が入る。
・4丁目の豪邸から、宝石を盗んできてください
「ひぃ! 簡単っていったじゃないですか!?
いきなり盗みに入るなんてとても無理ですよ!!」
まさか主犯役を一発で引き当てるとは……。
レパンはゴェモンの引きの強さを実感しつつもなだめた。
「大丈夫、すでに泥棒のおぜん立てはされているから。
きみは普通に家に入って、普通に盗ってくればそれでいい」
「その"普通"ができないんですよぉ!!」
「ダメだ。もう予定は決まっている。
きみが主犯として動かなければ、2万人全員に報酬が届かない」
「だったら、あなたがやってくださいよぉ!!」
ゴェモンがダダをこねるため時間ばかりが過ぎる。
レパンとしても初犯にはハードル高いことはわかっているし、
これ以上モタついてしまえば計画がはたんする。
「……しょうがない、今回だけは俺がやろう」
レパンは仕方なく、ゴェモンの代わりに泥棒へ入った。
「やれやれ、こんな簡単なこと誰にでもできるだろうけどなぁ」
レパンは宝石を手に入れて仕事を終えた。
ただ、宝石はどこかで見覚えがある気がした。
「……なんだっけ?」
主犯の係が回るのはほぼないので、
レパンは特に気にせず次の仕事へと向かった。
刑務所では、泥棒の出所を待つ覆面警察官が2人。
「泥棒のグループで同じ品物をループさせて大成功だったな」
「あいつらは、金を稼ぐよりも盗みがしたいんだ。
捕まってもどうせ逃げるんだから、無害にさせたほうがいいだろ?」
「宝石を盗んだ泥棒から、
また別の奴が盗みに入れば迷惑かからないわな」
二人はおおいに笑うと、出所してきた泥棒に声をかけた。
「君も泥棒グループに入らないかい?」
作品名:完璧なる1万人の泥棒たち 作家名:かなりえずき