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てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
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「もう一つの戦争」 開戦と子育て 6

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そんな事実を映画からではあったが裕美子は記憶していた。
省線に乗り換えてから横須賀の病院に着いたのはお昼を少し回っていた。
幸一は妻の訪問に驚きを隠せなかったが、顔を見ると嬉しさと悔しさで涙がこぼれた。

「裕美子、おれは何という不届きものだ。この最大の決戦の時に役に立てないと情けなさで泣けるよ」

「あなた、ほらこの子を見てください。あなたがここに居るからこうして会えたのですよ。女の子です。あなたにそっくりって女将さんも、ご両親も言われた」

すやすやと眠っているわが子を恐る恐る触ってみる。
壊れそうな柔らかい手。幸一はこんな小さな赤ちゃんがやがて裕美子のようなお母さんになるんだと人間の不思議さと女性の偉大さを感じていた。

「本当に可愛い。おれに似ているって父母が言ったのか?ならそうなんだろう」

「ええ、そう言われていましたよ。ところでまだ名前が無いの。なんてつけたらいいか考えてください」

「名前か・・・そうだな。お前の名前から美しいと言う字と、おれの名前から幸せという字を並べて、美幸というのはどうだ?」

「美幸・・・美しく幸せ・・・はい、そうします」

そう返事してハッと気づいた。
おばあちゃんの名前と同じだと思い出したからだ。

運命のいたずらはこんな偶然をもたらすのか。それともこれは運命ではなく歴史なのか。
裕美子は自分がこの世界へとタイムスリップしたことの理由を探し始める。
おばあちゃんは父親が特攻で戦死したと話した。ここに自分が居ることでそれを食い止めることが出来るかも知れない。

母親は事故で死んだと言った。それがもし今の私のことを指すのだとしたら、事故に遭わないように気を付けようとすればいい。
ここに来る前のあの日、温泉施設でもし本当に地震でおばあちゃんが死んだとしたら、私を何かの力でこうして助けてくれたのかも知れない。
ここは自分が居た地球とは違う地球なのだろうか。しかし、現実に起こっている太平洋戦争は自分が映画で観た、そして歴史で習った内容と変わりはない。

ここまでは・・・である。