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さかいあきこ
さかいあきこ
novelistID. 57593
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すてきなあなたに憧れて

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棒ういろ


この夏、仕事で生まれて初めて徳島に行きました。
阿波踊りの近づく季節、徳島の街ではいたるところで踊りの練習が繰り広げられます。
学校や仕事帰りのその足で練習へ参加するといった風で、本当に日常の中に溶け込んでいるのです。

ターミナル周辺でも夜な夜な練習が行われ、私も全くの予定外でその光景を見ることができました。
夏の夜風にきらめく街明かりの中、軽やかなお囃子に合わせて浮かび上がる連の踊り手達の姿。
激しくて、でもたおやかで…間近で見るとその鼓動を感じ私の心もふるえました。


そんな徳島で出会ったのが「棒ういろ」です。

その昔徳島が「阿波国」と呼ばれていた頃、秘密裡に砂糖きびの栽培法が伝えられました。
その砂糖きびから作られたのが「阿波和三盆」。

徳島藩主や領民たちはそれを使ったういろう(阿波ういろ)を食べることで阿波和三盆の完成を祝いました。
それが、旧暦三月三日の節句のこと。
今でも、徳島ではこの日に阿波ういろを食べる習慣が残っているそうです。

私は、そんな阿波ういろの一種「棒ういろ」の虜となりました。

個包装された小さな棒状のういろうです。
色はシンプルなあずき色。
上品な甘さでしつこくありません。

最大の特徴はその食感です。
ういろうなのですが「歯触りが良い」と言えば良いのでしょうか。
餅とも団子とも違う…そう言えば、近江名物丁稚羊羹に近い気もします。

棒ういろは日持ちしないため、お土産コーナーではほとんど見かけません。
地元の人が振舞ってくれない限り、出会うことはないのです。
幸運なことに、三日間の仕事中、二度三度といただく機会がありました。

見た目は至って地味で、初めて食べたときは「こんなもんか」と思ったぐらいです。
それが繰り返し食べると「あれ…?」

全く知らない所から紹介されたお見合い相手、最初は何も思わなかったのに…
会う度相手の魅力に気づいてどんどん好きになっていく。

とそんな具合で、今では恋焦がれてお取り寄せまでする始末です。
この棒ういろを食べると、徳島の夜風を思い出すのです。