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きんぎょ日和
きんぎょ日和
novelistID. 53646
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ゆっくり進化する?!…お母さん畑。

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先ずは、苗ごとに支柱を一本ずつ立てていた。
苗と苗の間は四十センチほどある。
手を休め、その後どうするんだと見ている私…。
三本ほど支柱を刺すと、いきなり横向きに支柱を紐で止めようとし始めた。
ちょいちょいちょい…と思った私は、
『お母さん、その幅はないわ~。マス目の幅はどのくらいにするの?!』
と待ったをかけてそう聞いた。
お母さんはどうして私がそう聞くのか意味が分からない様子で、マス目のサイズを支柱で作って見せてくれた。
そして、
『何か変かなぁ~?!』
と言った。
『その幅はないよ~。それ縦横の幅、三十、四十くらい?!』
と私が聞いたら、お母さんはそのくらいだと肯いた。
『そんなに幅取ったら、次のマス目まで手が届かないよ~。こんな風に、届かない届かない…遠いよ~ってなるよ。』
とジェスチャーで伝えたら、
『じゃあ、どうしたら良いの?!』
と何故かお母さんがイライラし始めた。
『縦にもう一本ずつはいる!!』
と言うと、お母さんは声を出さずに、
“えーーーっ!!”
という顔をして、倉庫に新たな支柱を取りに行った。
縦に支柱を刺す時に、土が固いのでうまく刺さらないようで、お母さんは台を持って来た。
その上に乗って、支柱の先をハンマーのような物がないので、小さな斧の柄で叩いて差し込もうとしていた。
私はその姿を見ていて、何かが変だと思った。
カナヅチを使うことに慣れてないので、空振りはあるけれどそんなことはどうでもよくて、うまく支柱に命中すると支柱じゃなくてお母さんが縮んで行っている。
…おかしい…。
私はそのまましばらく見ていた。
でもやっぱりおかしい。
支柱のてっぺんからドンドンお母さんの手が遠くなって行っている。
私はお母さんの所まで行って確かめた。
お母さんが持って来た台が、叩く度に埋まって行っているということが分かった。
しかしお母さんは気付いてない…。
一生懸命叩いているお母さんにその事を告げたら、打つのを止めて台から下りた。
そして私が埋まって行った台を土から引き抜き持ち上げたら、やっとお母さんも意味が分かったようで、
『それでかぁ~、ドンドン打つ所が高くなって行くからおかしいと思った~。』
と言った。
お母さんがすると危ないので、私が代わりにしたら、同じように台が埋まって行き、お母さんとその状況がおかしくなって来て二人で笑い出した。
力が抜けてしまい打つどころじゃなくなった。
一頻(ひとしき)り笑った後、お母さんは支柱打ち、私は土を耕しに戻った。
でも、お母さんが縮んで行く姿を見てしまうと、やっぱり二人で笑い出してしまうのだった。
それでもどうにかこうにか終わって、お母さんは横棒を紐で止め始めた。
それも初めてするらしく、支柱が斜めになってたり緩かったりとしていたようだった。
何処かを固定していると止めた所が外れたりと、てんやわんやしながらグラグラ状態で終わった。
そんな柵を三ヶ所作り終えたお母さんから、
『よしっ!!』
と聞こえた。
私としては、“よしっ!!”ではなかった…。

ようやく柵が出来て、ニガウリもきゅうりも心置きなく茎もツルも伝わせて行けることとなった。
…はずなのに、数日ほど経っても一向に見た目が変わらない…。
何故だろうかと近付いた。
最初はきゅうりの元へ。
きゅうりが地を這ったままの姿で成長している…。
首を傾げ見ているときゅうりが、
『あいちゃん、あいちゃん、手が手が…、届かない…。』
ということだった。
なるほど~と納得した私は、そーっときゅうりを持ち上げ、一番下の柵に引っ掛けようとしたら、
『ムリムリムリムリ~!!』
ときゅうりに言われ一旦手を離した。
きゅうりがドシンと地に落ちた。
茎がクネクネと曲がって成長してしまい、柵に届かない。
しかも一段目がどうしてこんなに高いのか…という問題もある。
もう一度きゅうりの茎を持って一段目に乗せようとしたら、また同じように、
『ムリムリムリムリ~!!』
と言われた。
が、私もきゅうりに、
『がーまーんーっ!!』
と言って少し無理やり引っ張って、先っちょの方を一段目に乗せた。
ちょっと引っ張られている感じはあるものの、
『ありがとう。』
ときゅうりから聞こえた。
お隣のきゅうりも同じように我慢させながら一段目にどうにか乗せた。
そしてニガウリの所へ。
きゅうりと同じように一段目は高い。
さてさてニガウリのツルを這わせ…ようか…、と掴んでみたら届くまでの長さも成長してなかった…。
いや、成長してないこともないが、一段目が三十センチほども高さがあるから、無理に引っ張りでもしたらツルが切れてしまう。
私の諦めた気持ちが早かったせいで、パッと手を離してしまいニガウリは地に落ちた。
『あっ。』なのか『う゛っ。』なのかよく分からない声が聞こえた。
咄嗟だったのでそこまで気付かず、すみませんと謝った。

そして次の日、きゅうりは二つとも地に落ちていた。
きゅうりたちのところへ行き、また持ち上げようとしたら、
『あっ、もういいよ。どうせまた落ちるから…。このままでいい。』
と言われたので私は従った。

それから何日か経って、私は自分の畑の作業をしようと畑へと向かっていた。
畑に向かいながらきゅうりとニガウリを見た。
それはすごい有り様だった。
きゅうりは両手を広げたような格好で、地面に顔を擦(こす)り付けながら地を這っていて、ニガウリは地を這いながら、解けないほどにグッチャグチャにツルが絡み合って、一塊になっていた。
…無残だ~と私の心の声…。
そして畑で作業を開始した。
そしてお母さんも自分の畑の作業をしていた。
気付いた時には、お母さんは道を挟んで右のトマトたちのところにいた。
何をしているのか分からないけど、私は自分の作業に集中した。

一通り作業を終え、家へと戻っていたら、異変に気付いた…。
…きゅうりが…ビミョーに違う…。
…どうした…?!と思い、首を傾げながらきゅうりの元へ。
…あっ!!一段目に茎が届いてる…。でも何か変…。
『…お母さんがしてくれた…。』
ときゅうりが一言。
でもその言い方に苦しみを感じた。
茎が紐で一段目に固定されていた。
何か無理矢理引っ張られているような…と思っていたらきゅうりに、
『お母さんがね、お母さんが…こうやって引っ張った…。…結構大変…。』
と言った。
脇を引っ張られ爪先立ちにされてるような格好で、一段目に縛られていた。
通りでと肯きながら、
『あらまあ~。めちゃくちゃするなぁ~。』
と思った私は、まだ畑にいたお母さんに、きゅうりの格好をしながら、
『お母さん、きゅうりがこんな格好になって、“結構大変。”って言ってるよ~。無理させすぎ~。』
と伝えると、お母さんは面倒臭そうな顔をして、
『えっ?!ん~…、我慢してもらって…。』
と言った。
それを聞いたきゅうりは大きく深呼吸して、
『…はあ~。はぃ、我慢します…。』
とため息の後そう答えた。
お母さんはそれを聞いて、
『よろしい~。』
ときゅうりに声をかけた。
やっぱり私の立場は挟まれた状態となる。
私も苦しい…。
ニガウリもついでに見た。
グチャグチャの無残な一塊が支柱に括(くく)り付けられていた…。