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「お帰りなさい。ご無事で安心しました。このたびはおめでとうございます」

「裕美子、心配かけたな。今日は素晴らしい服装だ。これは司令長官から戴いたあの着物だな？おれも誇らしいぞ」

「ええ、そうです。似合っていますか？ならうれしいです」

「ああ、とても似合ってる。お前は美人だ。おれは幸せ者だな」

少し長話をしていたので、最後に降りてきた指揮官の山口が近づいて声をかけた。

「少尉、貴様の奥方か？」

「はい、裕美子と言います」

「うん、うわさに聞いておったが、なるほど、美人じゃのう。お前は飛行の腕も一流じゃが、嫁選びも一流じゃな。さすが司令長官のお気に入りだ。ますます励んでくれよ」

「はっ！ありがたいお言葉過分に感じます」

「未練はあるだろうが、もう行くぞ。奥方どの、私が保証するぞ。こいつは優秀な零戦飛行士だ。誉れに思うがよいぞ」

「山口少将どの、身に余る光栄です。山本様にお会いになられましたら、裕美子がこのたびの大成功をお喜びしております、とお伝えください」

「うん、わかった。奥方どのも身体をいたわってよいややこを産んでくだされ」

「はい」

この時代海軍指揮官が一般の婦人と話すことなど稀であったので、周りは誰なんだろうと不思議な顔つきになっていた。
もし連合艦隊司令長官山本五十六と親しい関係であると知れば、畏れられるのかも知れないと女将は思っていた。
戦争が始まる前と今とではそうした人間関係も大きく変わろうとしていたのである。

裕美子はこの後幸一と会えなくなり、女将と修善寺に戻って行った。
年が明けて昭和十七年一月二日、日本軍はフィリピンのマニラを占領した。二月十五日には難攻不落と称されていたシンガポールの英軍を打ち破り降伏させた。
国中が歓喜に沸き、日本は負け知らずの快進撃を続けていた。