「もう一つの戦争」 開戦と子育て 4
「旦那様から聞いていた話なのね?」
「知っていました」
「どういうこと?」
「夢に見たんです」
「そういう話ね。ビックリした。脅かさないでよ」
「女将さん、真実です。これから日本はアメリカとの戦争に入ってゆきます。正しくはアメリカ、イギリス、オランダとの宣戦布告です」
「あなたなぜ今まで知っていたのなら黙っていたの?」
「幸一さんと結婚していなければ、お話ししていたと思います。国家の重要機密だろうと、夫に疑いがかかるといけないと遠慮してきました」
「そう、信じるとして、どうなるのこれから?」
「夢を見たらまたお話しします」
「そんなことなの。がっかり・・・。それよりおなかの赤ちゃんずいぶん目立ってきたわね。予定日はいつになるの?」
「はい、四月中頃だと思います」
「今が大切な時期ね。あまり思いつめたりしないようにね。赤ちゃんのために今は過ごすのよ」
「ありがとうございます」
十二月八日午前十一時四十五分、天皇裕仁の名前で宣戦の大詔(たいしょう)が発せられた。
署名したのは内閣総理大臣兼内務大臣陸軍大臣、東條英機始め十二名。その中には商工大臣として岸信介の名前もあった。
作品名:「もう一つの戦争」 開戦と子育て 4 作家名:てっしゅう