連載小説「六連星(むつらぼし)」第86話~第90話
「気が利く?どこが。 馬鹿なことを言うな。
護衛につくのは、どこの馬の骨とも知れない凸凹コンビの二人だぞ。
しかも相乗りで、延々と若狭の方まで飛んでいくんだ。
何が有るのか解らねぇ。
絶対駄目だ、俺は反対だ。何が何でも認めないぞ、そんな無謀な計画は」
「あら。表でもう、クラクションが鳴ってるわ。
ほら・・・・到着したようですよ。噂のご一行様が。
行こう、行こう。響。
こんな偏屈なジジィなんか相手にしないで、サッサと2人で出掛けましょう。
着物だもの、車の方が楽だわよ。
おまけに屈強なボディガードまでついているんだもの、
きっといい旅になるわ。
流石ですねぇ。やっぱり極道は、細かいところまで気がきくわね」
清子は、乗り気だ。
本格的に着物を着こんだ響を見て、岡本の顔がぐずぐずになっている。
凸凹コンビはアロハの揃いのクールビズで、麦わら帽子の
おまけまでついている。
出来そこないの漫才コンビみたいだわ、と響が笑いこける。
出発だというのに、いつまでも姿を見せない俊彦に、岡本がしびれを切らす。
「こらぁ。花嫁の父は出てこないつもりか!
今時の不良だって、大飯原発の再稼働反対のデモに参加すると言うのに。
お前は可愛い子供の旅立ちも見送れないのか。この薄情男が。
そんなに見送りが嫌なら、勝手に一人でふて寝でもしていやがれ。
おい、もう良いから、とっとと出発をしょうぜ。
出てこない奴を、いつまでもチンタラ待っていられるもんか・・・
おい。発車だ。行け行け。かまうものか早く、車を出せ」
「それが、そうでもないみたい。
ほら・・・観念してやっと姿を見せたわ。
やっぱり、なんだかんだといっても、最後は花嫁の父よねぇ。
横柄なことを言う割に、響にはどこかで甘いもの。
あれで響の事を、一番心配しているんだよ、あのは・・・・
可愛いところもあるじゃないの。そんな風に考えてあげれば」
「なんだ。結局、行くのかお前は・・・・詰まらん男だな、お前も。
駄目なら俺がお前の代わりに、花嫁の父の役目を勤められたものを。
気がきかねえ奴だな。まったくお前ってやつは」
「馬鹿野郎。響の見送りに行くわけじゃねぇ。
極道が参加すると言う、大飯原発のデモ行進に、俺も参加するだけの事だ。
響のことはそのついでだ。あくまでもな」
「わかった、わかった。それ以上は言うな。
おい、そういうことだから車を出せ。行く先は、首相官邸の前だ。
でそのあとは、響をのせて、福井県の若狭までひとっ走りしてくるんだぞ。
とりあえず一週間から10日くらいは、向こうでのんびりしてこい。
いや、なんなら、半月や一カ月くらい滞在してきてもいいぞ」
「おいおい、ちょっと待て。聞いていないぞ、そんな長い旅の話は。
散骨するために行くだけだろう。
それが何で、そんなに長い日程が必要になるんだ。
あまりにも、長すぎねぇか、若いもん3人だけの旅が・・・」
「気がきかねえなぁ、お前も。
だいいち、ちっとも事態を理解していない。
若狭と言えば、大飯原発の再稼働で、大揺れ中の現地そのものだ。
視察も含めて、響は若狭へ散骨に行くわけだ。
察してやれ、そのくらいは。
突然、父親になったものだから、お前には思いやりが足りないんだ。
俺なら、響と一緒に若狭まで着いて行く。
もっともそれじゃ、過保護すぎる。
響にしてみれば自由が利かず、迷惑そのものになっちまうだろう。
かわいい子には旅をさせる。
可愛い響の旅立ちだ。東京まで盛大に、俺たちで送ってやろうじゃねぇか。
あっはっは」
(91)へつづく
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」第86話~第90話 作家名:落合順平