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連載小説「六連星(むつらぼし)」第86話~第90話

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 6時から首相官邸前のデモ行進に参加した後、電車を乗り継いで、
若狭の海へ行くために、響が選んだ衣装は本格的な日本和装だ。
電話を受けた清子が、何故か自分の事のように喜んだ。
夜明け前から湯西川を出て、午前7時には、もう桐生へ到着した。
響をびっくりさせたのは、清子が運んできた真新しい衣装ケースの多さだ。
着つけるための和装と、小物がたいそうな数で到着した。

 「すべて、成人式用にあつらえた、あなたのための着物です。
 結局、青いドレスで成人式を済ませたため、こちらは手つかずでした。
 お役御免になると思っていたら、思いがけずこうして、
 日の目を見ることになりました。
 年齢が25歳ともなれば、振袖仕様はさすがに派手すぎます。
 ちゃんと直しておきました」

 「わざわざ準備しておいてくれたんだ・・・・わたしのために・・・・
 でもさぁ。このまま着ないでいたら、この着物の運命は
 どうなっていたのかしら?」

 「あなたが駄目なら、孫に着せれば済む、ただそれだけの話です」

 「お嫁に行かなかった時は、どうなるの」

 「あなたは結婚する気がないの?
 ふぅ~ん。それでも私は、別にかまいません。
 お嫁に行かなくても、子供の一人や二人は産む方法は知ってるわ。
 ゆえに別段、何事も心配などはしておりません。うふふ」

 「お~い」階下から、俊彦の声が聞こえてくる。
響の着つけが始まる少し前から階下へ降り、居間で時間を潰していた。
トントンと足音を響かせたあと、携帯電話を片手にドアの向こうへ顔を見せた。

 「麗しき和装令嬢の出来あがったか。いいねぇ~美人だねぇ。
 岡本から電話で車で迎えに行くから、時間を教えてくれと言ってきた。
 桐生駅まで行くだけで、たいしたことはないくせにあいつときたら
 電話の向こうで、妙に張り切っていやがる。
 さっきから、早く、響きに代わってくれと矢の催促をしやがる。
 出てくれ。響」

 響が電話を受け取る。
受け取った瞬間。電話から、大音響の岡本の声が座敷一杯に響きわたる。

 「え、行くの? おっちゃんも・・・・
 うん。まぁ、別に、それは大丈夫だとは思うけど・・・」

 電話は一方的に切れた。
響が返事を返すひまもなく、岡本が一方的に用件をまくしたてた。
最後に『すぐに行くから、表で待っていろ」と叫んだあと、プツリと
音を立てて電話が切れてしまった。

 「すぐ迎えに来るって? いったい何を考えているんだ、あの野郎は。
 電車の時間までは、まだたっぷりと時間が有る。
 別にあわてる必要もないだろうが」


 「実はねぇ・・・・デモに行きたいんですって、岡本のおっちゃんも」

 「なに!。極道の岡本が、原発反対のデモ行進に参加するのか!。
 なにを考えているんだ、あの野郎。
 正気の沙汰とは思えねぇ行動だ。いったいどういう風の吹き回しだ・・・・」

 「特定の政治団体や、労働組合が主催しているわけではありません。
 ツイッタ―の趣旨に賛同した人たちが、自発的に参加しているデモ行動です。
 極道が参加しても、何の問題もないだろうと、
 本人はそう言い張っています」

 「理屈はその通りだ・・・・だが、極道が顔を出すのは、番外だろう。
 どうにも信じられない発想だな・・・
 背後に何か、岡本の悪だくみが有るような気がしてならねぇ。
 悪い予感がしてきたなぁ」

 「それだけじゃないの。
 お母さんと俊彦さんも、一緒に東京まで見送りに行こうと言ってるの」

 「俺たちも見送りに行く? 東京まで、俺たちまで同行していくわけか?
 何を考えているんだ、あの野郎。ますますもって訳がわからねぇ」

 「それだけじゃないの。まだあるのよ」

 「まだ何か有るのか、その他にも! 
 これ以上に、いったい何が有るっていうんだ。・・・・」

 「例の凸凹コンビをボディガードにつけて、俺のワンボックスを貸すから
 それで福井の若狭まで行って来いと言っているのよ。岡本さんが」

 「あら、名案ねぇ。気が利くじゃないの、岡本さんも」