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連載小説「六連星(むつらぼし)」第86話~第90話

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 この話を聞いたライターが彼を取材して、体験話をヒントに、
推理小説を書きあげました。
本のタイトルは、「原子炉の蟹」です。
1981年に出版されたこの本は、その当時、原発で働く人たちの間で、
大きな話題を呼びました。

 私の場合、蟹の這うような音は聞こえませんが、頭を激しく
締めつけられる感じと、早いテンポの読経のようなものが、ガンガンと
耳の奥で鳴りました。
原子炉の内部に飛び込むと、急いで立ち上がりました。
あまりにも勢い良く立ち上がったために、ヘルメットが狭い天井に
当たりました。
首を傾けた姿勢をとり、薄暗い中でロボットを両手でしっかりとつかみ、
「オッケー!」と、外へ向かって大きな声を出しました。


 リモコンが動き始めると、ロボットのロック状態が解除されます。
移動するためのロボットの足が、それぞれの穴から飛び出してきました。
ロボット本体は、思っていたほど重くありません。
足を正確に穴に合わせると、再び『オッケー』と外部へ合図を送りました。
足のすべてがカチャリと、穴に差し込まれるのが見えました。
すべての足が、穴に入っているのを確認するとふたたび『オッケー』と叫び、
私はあわてて、マンホールから外に飛び出しました。


 費やした時間は、わずか15秒足らずです。
逃げるようにマンホールから外に出ると、責任感の強い日本非破壊検査の社員が
またマンホールに顔を近づけて、内部の様子を見ます。
顔の上半分を内部に差し入れてロボットの位置関係を、確認しています。
眼球ガンという病があるとするならば、彼はいち早くその患者になるでしょう。
私には思えてならない、恐怖の光景そのものです。

 役目を終えた私は、全速力で炉心部から離れました。
防護服を着脱するエリアへ、ひたすら走りました。
防護服は放射能に汚染されているために、慎重に脱がなければなりません。
ゴム手袋を何枚もつけた作業員が、ぐるぐる巻きにしたガムテープをハサミで
切断してくれます。
防護服は、2名の作業員によって慎重に脱がされました。

 タイベックスーツは裏返しに折りたたまれて、2次汚染をふせぐため、
素早く、ビニール袋の中へ収納されます。
エアーマスクは、私の荒い呼吸で白く曇っていたものの、
タイベックスーツ内は、空気が送れ込まれていたので、
比較的に涼しく手以外は汗をかくこともありませんでした。

 アラームメーターを取り出してみると、200を上限とする機械が
180いう数値を記録していました。
15秒足らずの作業で、180ミリレムという高い放射能を
浴びてしまいました。
いまではシーベルトという単位を使用してますが、この当時はいまと違い、
ミリレムという単位で表示していました。
このあと。1ヵ月余りにわたり同じような作業に携わりました。
もう一度、原子炉内に飛び込んでいます。
2度目に入った時も、やはり、恐怖心を克服することはできませんでした。
同じようにやはり、不気味な耳鳴りを体験しました・・・・

 「壮絶すぎる・・・
 技術や機械がどれほど進歩しても、どこかで必ず、人の手が必要とされます。
 人の手が必要になるたぶに、命が危機や危険に立たされる。
 原子炉の核燃料は危険すぎます。
 目に見えない放射物質が、原発ではたらく多くの人たちを
 生命の危機に追い込んでいます。
 いいんだろうか、日本の原発は、こんなことで・・・・」

 ボイスレコーダーのヘッドホーンを外しながら響が、
山本と約束した散骨の地、福井がある西の方角を、じっと見つめる。