「幸せの交換」 第五話
玄関先で息子が車で駅まで送ってくれると言ったのでお願いした。
助手席に座ると隣で息子がちらっと見て、
「母さんじゃないみたいだ」
とつぶやいた。
嬉しいような、子供だけに恥ずかしいような気持ちになった。
「そう、若すぎる格好だったかしら?」
「そういう意味じゃないよ。男として見て素敵だと思ったんだよ」
「まあ、嬉しいこと言ってくれるのね。お世辞でも感謝するわ」
「母さんは、おやじと仲良くしてないのか?」
「急に何よ!普通にしてるけど・・・」
「普通か・・・こんな時おやじが駅まで送ると言うのが普通なんだよ。違う?」
「お母さんが頼めばよかったんだけど、自分の遊びで出かけるのに悪いと思って歩いてゆこうと決めたのよ。そうしたら送ってくれるっていうから甘えたの」
「おれは送るのは全然いいんだよ。遊びでも頼めばいいんだよ。おやじだって飲んだ帰りとか迎えに来させているじゃない。おんなじだよ」
「そうね、余計な心配させちゃったね。大丈夫だから。あなたも大人になれば解るの。夫婦なんてこういうものだから」
息子は納得しない表情をしていた。
作品名:「幸せの交換」 第五話 作家名:てっしゅう